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171話 vs竜種

ギルドカードに見慣れぬ桁数の数字が並ぶ。

それをにやけた顔で眺めていた。


「一日10万の豪遊として、一ヶ月で200万…」

「…ねぇ」

「五ヶ月は遊んで暮らさせそうか…少ないな」

「ちょっと、なに無視してんのよ」


金勘定をしていると、すぐ隣から非難めいた声が聞こえる。


「えっ?なにか用ですか?」


呆けた顔で告げれば、シスは眉間にシワを寄せた。


「サボってないで、手伝いなさいよ」


その言葉に周囲を見渡せば、廃墟の中に散らばる壊れた機械類やガラクタが。


…ああ、探索中でしたね。


今日も彼女と共に転移門をくぐり、旧都に来ていたのだった。

遮る物のない窓の先には、高層階の建物がひしめいている。


…ここは十階だったかな。


旧都の探索に時間がかかる原因の一つだ。


ドゴォォオオンッ!


遠方で爆発音が鳴り響く。


「…やってますね」

「またぁ?イカれたやつらね」


そして、もう一つの要因。

魔族は個人主義の傾向が人族よりも強い。

小さな集団は作るが、大規模な集団を作る事は稀らしい。


いや、目的が一致した時のみ結果的に大規模化すると言った方が正しいのだろう。

だから、今も好き勝手に戦って派手な音を奏でている。


笑ってしまうのが、ここが旧都のどこか誰も把握していなかったのだ。

ただ敵を全て倒せば良いと考えていたのだ。


…実に単純明快。


そして、それを悪くないと思ってしまう。


「なぁに、ヘラヘラ笑ってるのよ」


怪訝な視線がこちらへと向けられる。


「いえ、楽しいですね」

「あんたはサボってるからでしょ」


ガッ!


当てつけるようにガラクタを投げつけてくる。


「…そんな事言われても、何が高いかわからないんですよ」

「ギルドの掲示板に買取依頼が貼ってあったじゃない」


…なるほど。

あの張り紙は買取依頼だったのか。


「魔族の文字が読めない事、忘れてません?」

「…使えないやつ」


心底、呆れ果てた顔をされてしまった。


「いい?あんたは何もしてないから、これはあたしの取り分よ?」

「…護衛にはなってますよね?」

「可愛い美少女を守るのは当たり前じゃない」

「…はぁ」


演技がかった笑顔に返す言葉が見つからない。

声にならない声と共にため息をつきながら、窓の下を覗く。


「じゃあ、私は狩りをしてきますので…」

「…え?」


彼女の返事を待たずに、高層階から飛び降りる。

その先には特徴的な翼を生やした巨大な魔物。


——竜種だ。


シャロンと共に遭遇したやつとは違い、その地肌は赤みがかった鱗で被われている。


二度目となる竜種との戦いに胸を踊らせる。

そして、右手に魔素を込めると勢いよく振り下ろした。


ドゴォッ!


魔力を纏った斬撃は、赤竜の頭に直撃する。

その衝撃で地面は砕け、体勢を崩すが倒れはしない。


ギャオォオオンン!!!


怒りの咆哮が周囲に響き渡る中、竜種は口から火の球を生み出す。

それは瞬く間に辺りを焦熱が襲った。


「…小さいな」


地面に降り立った私は赤竜を見上げながら呟く。

人間とは比べ物にならないサイズである事は間違いないのだが、前回の黒竜より二回りは小さいのだ。


火炎を避けながら、右手を薙ぎ払う。


ガキンッ!


魔法の効果を衝撃に変換する能力はまさに竜種と言ったところだろう。


…だが、それだけだ。


「…実験に付き合ってもらいますよ」


赤黒い液体を無数の銃口に変えて赤竜を見つめる。

転移魔法持ちでもないただのトロい巨体だ。


縮地で地面を蹴ると、その巨体の側面に回り込む。

赤竜は身体をひねり反応するが…。


…遅い。


周囲の魔素を右手に凝縮させる。

そして、


ガガガガガガッ!!


その胴体に魔力の弾丸を連続で打ち込んだ。


ギャオォォォン!


初弾の何十発かは弾かれたものの、衝撃を吸収できなくなったのか赤竜から悲鳴が上がる。


メリッ!


硬い鱗にヒビが入り、赤黒い血液が飛び散る。


ドゴッ!


やがて鱗が完全に砕けると、皮膚を貫き内臓を破壊した。


ドゴォォン!!


重い音を立て、その巨体が崩れ落ちる。


「……」


砂埃が舞う中、足を止めその様子を眺めていた。


「…虚しいな」


これが魔族にも恐れられていた竜種なのだろうか。


——化け物は歓迎だ


「ああ…」


そうか。

自分はとっくに化け物だったんだ。


荒廃した世界の中で、ただ空だけは変わらずにいた。



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