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167話 ガーディアン

「いやぁ!悪い!悪い!」


冒険者の一人が豪快に笑っている。

もう一人の男はガーディアンと呼ばれた少年の亡骸に手を合わせて何かを呟いていた。


「ガーディアンとは何ですか?」

「知らないで来たのかよ?」

「ええ、遠い田舎から出てきましてね」


私が答えると、二人は不思議そうに顔を見合わせた。


「旧都の貴族様さ…もうとっくに死んじまったのにここを守るように残ってるんだ」

「…誇り高い戦士だ」


手を合わせていた男は、地面に向けて魔力を放出すると小さな穴をあけた。


「それで純血種ですか…」


その割には…。


「…弱かったって言いたそうだな」

「え?」


私の気持ちを代弁した男に向き直れば、鋭い瞳で睨みつけられている。


「決して弱くはないぜ…ただ器用に戦えないだけだ。あんたみたいな化け物にはわからねえかもしれねーけどな」


その言葉に悪意はない。

確かにワンパターンな魔力放出に無防備すぎる程の防御だった。


「なあ、半身に紋様を描いた男を知らないか?仲間なんだがよ」

「…その人なら死にましたよ」


小さな穴に埋葬されるように寝かされた少年を横目で見る。


「…そうか。身体はどこに?一緒に埋めてやりてえんだ」

「消し飛んでましたね」


…彼女はまた死ねなかったみたいですが。


魔素を吸収して起き上がるシスを眺めながら答える。


「やつは戦士だったか?」


少年に土を被せた男は立ち上がると、真剣な面持ちでこちらに視線を向けた。


…誇り高い戦士か。


「ええ、真正面から突っ込んで行くような馬鹿でしたね」

「…馬鹿か、ハハハッ、やつらしい死に様だな!」

「…そうだな、羨ましい死に方だ」


男達は笑い合う。

戦いに身を投げた一人の男の最後に羨望の眼差しを向けていた。


「ねぇ?あたし死んだの?」


そんな馬鹿笑いに目を覚ましたシスが気怠そうに尋ねてきた。


「ええ、まるで寝起きみたいですね」

「いつもこんな感じよ」

「嬢ちゃんも…」

「やめておけ」


豪快に笑う男が何か言いかけたが、もう一人の男が制止した。


「なに?」


寝起きのように機嫌の悪いシスは睨みつけるようにして男に尋ねた。


「いや、余計な詮索はするもんじゃない」

「…正解よ」


興味がなさそうに彼女は視線を切った。


「じゃあ、俺達は帰るぜ。仲間も死んじまったから出直しだ」


そう言うと男達は魔法陣に向かって歩き出す。

そして、手前で止まると、


「あっちの方にガーディアンが守っていた館があるぜ」

「金になると良いな」


そんな言葉を残して姿を消した。


「ガーディアンが守る?」


男が指差した方角に視線を移す。


「ガーディアンって何よ?」

「貴族の亡霊が旧都を守ってるそうですよ」

「あたしを殺したやつ?」

「ええ、シスはここで帰りますか?」


入口でこれなのだ。

あと何回死ぬかもわかったものじゃない。

 

だが、シスは嬉々とした表情を浮かべると、


「馬鹿言わないで。あいつはあたしを殺し切れなかった。…神殿の事がわかるかもしれないのよ」

「次は痛いかもしれませんよ?」

「…守りなさいよ」


心配を他所に不敵に笑い返されてしまった。


「無理でしたね」

 

呆れたように肩をすくめると、示された方角に足を進める。

背後には溜息混じりについてくるシスの気配。


「いいわ。勝手に盾にするから」

「はは、私が避けたら直撃ですし、正面以外がら空きですよ」


馬鹿馬鹿しい動作に思わず笑ってしまった。


ガッ


「…蹴らないで下さい」

「ちょっとムカついたの」


そんな緊張感のないやり取りに笑みが溢れる。


周囲は終末世界を思わせるような廃墟と化している。

深い霧のように沈殿した魔素が、空気をより重く感じさせていた。


生命の気配が消えた静寂の世界。


そんな中で不思議と笑みを零している私がいた。



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