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165話 転移門

翌日。

酒の抜け切らない重い頭で冒険者ギルドの扉を開いた。

相変わらずの紫煙が立ち込める空間の中、辺りから視線が集まる。


「…飲みすぎましたね」

「頭痛いよぉ」


私もシスも体のだるさに襲われながらも、近くの椅子に腰を下ろした。

そして、周囲の魔族と目が合う度に、彼らは顔を逸らす。


…幼い外見程ヤバいんでしたっけ。


屈強な冒険者の中、私達の見た目は相当浮いている。

そんな事をぼんやりと考えていると、


「あら?もう顔を出したのね」


赤髪を揺らしながらレベッカが姿を見せた。

腰には大きな剣をぶら下げ、溢れ出る自信と他者を拒絶する強い魔力を全身から漂わせている。


「その魔力、魔法でも撃つつもりですか?」

「魔力?…あぁ、ここは舐められたら終わりなのよ」

「よくわかりませんね」

「はは、無自覚に魔力が漏れてる子にはわからないでしょうね」


レベッカは肩をすくめながら椅子に座った。


「お姉ちゃんもお宝探し?」

「あんた達のおかけで、昨日は稼げたからね」

「旧都はここからどのくらい離れてるんですか?」


飲み物を注文する彼女に何気なく尋ねてみる。


「さあ?受付の奥に転移門があるから、すぐ着くわよ」

「てんいもん?なによ、それ?」

「旧都の遺産よ。門と門が繋がってるわ」


転移魔法を応用した魔道具なのだろうか。


「良ければ案内してもらえません?」

「…悪いけど、あたしはソロだから」

「見つけた遺産の取り分です?」


レベッカは意外そうな表情を浮かべて小さく微笑む。


「あたしが探してるものは知識よ。お金にはならないわ」

「うわぁ、意外」


シスが大袈裟に驚く。


「ふふ、そうでしょうね」

「…研究者なのです?」

「いいえ、ちょっと友達を助ける為にね…その子、呪われちゃってるから」


飲み物を片手にレベッカは遠くを見つめる。

その表情はどこか悲しみに暮れていた。


「…神殿…なんて言ってもわからないよね」

「…!?」


レベッカの呟きにシスが反応する。

彼女はテーブルの下で手を握り締めた。


「どんな…神殿?」

「…わからないわ」


平静を保つように聞き返すシスに、レベッカは首を振った。


「だから、あたしは一人で行くわ。死にそうだったら、助けてね」


笑顔で軽口を叩きながら席を立つ。

そして、受付の方へ去って行った。


「…あたしも行く」

「神殿ですか」


彼女の言う神殿とシスの知る神殿が同じとは限らない。

そもそも何十年と旧都を探索しているレベッカが未だ探し続けているのだ。


「何も見つからないと思いますよ」

「でも行きたいの」

「死んでも知りませんからね」


私は立ち上がり、受付の方へと歩き出す。


「何言ってるのよ。それこそ望み通りじゃない」


シスは呆れた表情を浮かべながら、後に続く。


「見かけない顔だな…」


受付嬢は私達を見やり、見定めるように見つめてきた。


「旧都に行きたいのですが」


他の冒険者の見よう見まねで、ギルドカードを提示する。

彼女はカードと私を交互に見ると、


「ランクと魔力が合ってないようだが、まあ、良いだろう」


そして、人差し指に火を灯すと煙草を咥え紫煙を吐きだした。


「化け物は歓迎だ。期待してるぞ」


そして、視線を奥の扉に移した。

その先に転移門とやらがあるのだろう。


「そうだな…銅貨があったら拾ってこい」

「…銅貨?」

「ああ」


シスが首を傾げるが、促されるまま奥の部屋へと入る。

そこは巨大な空間が広がっており、磨き上げられた黒い石の床に魔法陣が描かれていた。

そして、中心には小さなクリスタルが青く瞬きながら自転している。


「これはエルフ語か」

「お兄ちゃん、読めるの?」

「ええ、意味はわかりませんけどね」


そんな私達の横を三人の冒険者が通り過ぎ、魔法陣の上へと移動する。

そして、彼らは光に包まれると忽然と姿を消した。


「…なるほど」


「あたし達も行こ!」


そう言うとシスも光の中に消えた。


「…よく平気で突っ込めますね」


大きく息を吐き、後を追うように魔法陣の上へと移動する。

体が何かに引っ張られる感覚が襲い、全身を包む光が強くなると意識が闇の中へと落とされた。


——ア…ク…ド参


——デ…致


——ミツケタ


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