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157話 魔族の冒険者

「kwtkr!」


薄暗い樹海の中で男の鋭い叫び声が響く。

声を掛けられたリザードマンは大剣を正面に向け、敵を迎え撃つように構えた。


その視線の先には巨大な熊のような姿がある。

熊との違いはと言えば、剣のように鋭く伸びた爪が生えていることだ。


ガキンッ!


大剣と爪が交差し、甲高い金属音をあげる。

リザードマンも大柄なのだが、体格の差なのだろう。

魔物の一撃によって弾き飛ばされる。


そして、二撃目が繰り出されようとした時、魔力の弾丸と叫び声が上がる。

リザードマンに気を逸らしていた魔物の背後から、半身に紋様を浮かべた女性が放った一撃。


ドオォオオン!


鈍い音と共に背中に命中する。


グガアッ!


だが、致命傷には至らないのか魔物は怒り狂い振り返る。

そんな隙を狙いすましたかのように、魔力を帯びた剣を構えた男の姿が目の前に迫る。


ザンッ!ズシュッ!


そんな斬撃が二閃。

巨大な魔物は前足の付け根から血を噴き出し、裂かれた傷を手で押さえながら膝を折った。

その腹部に向かってリザードマンが大剣を突き出し、そのまま横へ凪ぐ。


ズッシャァアッ……!


臓物を飛び散らせながら、熊のような魔物は地面に横たわったまま絶命した。


…武器に魔力を付与して戦うのか。


遠巻きから三人の戦闘を見ていた私はそう分析する。

動かなかったもう一人の男は後衛なのか、女性の側で佇んでいた。


「さて、私も働かないといけませんね」


背後の気配に意志の剣を引き抜く。

振り返ると同時に薙ぎ払ったものは、更に巨大な熊の魔物だ。


ズシャ!


だが、次の瞬間には頭部が切り裂かれ、地面に溢れ落ちた。


「……」

「…sg」

「jknmzkk?」

「……」


四人は驚きと呆れが混ざった眼差しを向けてくる。


「こちらは終わりましたよ」

「…smn。ktbgwkrnyd」


お互いに通じない言語で会話を試みる。

だが、表情でなんとなくだか察する事はできた。


…猫よりはわかりやすいですね。


敵意のような嫌な気配は全くない。

好奇と驚きの混ざった視線だった。


「ktrwhknd」


女が合図をすると、先程からついてきた集団が熊の魔物の解体を始める。

そして、荷台に乗せ始めた。


「サポーターですか」


リザードマンは彼らに向かって何やら指示を飛ばしている。


「mtkths」


そんな中、女性が声をかけてくる。


「…?」

「……」


私が困った顔を浮かべると、女は熊の魔物を指差し、両手で大きく円を描くと樹海を指差した。

そして、端正な顔に笑みを浮かべると手のひらを上に向け、親指と人差し指で丸を作る。


「もっと狩れば金になると?」


私も同じように笑みを浮かべ、丸を描いた。

女は満面の笑みで手を叩いた。


言葉が通じなくても、なんとかなるものだ。

表情と身体でなんとなく言っている事がわかる。


私は右手を差し出すと、握手を求める。


「…?」


だが、戸惑った表情で右手を不思議そうに握ってきた。


握手の習慣がないのか?


そんな事を思いながらも、笑いかけながら握った手を上下させる。

彼女もなんとなく理解したのか、笑みを返してきた。

その右手は力強く握られている。


そして、他の三人にも握手を求める。

やはり習慣がないのか戸惑った表情をされるが、視線を逸らさず気持ちを伝えるように右手を振る。


やがて、それは硬い握手に変わった。

そして、私達は樹海の奥へと進む。

サポーターの数は先程より増えていた。


ガァアアッ!


鋭利な爪を持ち合わせた大きな熊の魔物がまた樹々の間から姿を現した。


「…金が湧いてきましたね」


ザシュ!


手を前に突き出し、魔力の斬撃を放つと魔物は自らの血で曇りながら、ゆっくり左右に別れる。

続けて飛び出てきた魔物には意志の剣を空から突き刺した。


四人は驚いた表情で言葉を交わしていたが、何度も繰り返されるその光景を見る度に呆れた眼差しへと変わっていった。

変わらないのはサポーター達の歓声のみだろう。

嬉々として解体しては、荷台に運んで去って行く。


そして、樹海の先を指差しては私を促す。

おそらく彼らにとっても良い稼ぎなのだろう。


「さて、次は…」


何十匹目かの魔物を狩った時、半身に紋様を宿した女性に肩を叩かれた。


「msgyrnnr」


空に指を差し、何かを訴える。


「ああ、夜になるのですね」


樹々の隙間から見える夕焼けに冒険の終わりを感じ取りながら、私達は帰路につくのだった。


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