表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
378/402

155話 魔族の言語

——ねぇ、川があるよ


それは湖畔を歩いている最中、シスが不意に足を止め指差した先の事。

水の流れが穏やかで幅広い川面。


「…そうですね」


湖があるのだから、川があってもおかしくないだろう。

それを無視して、また見晴らしの良い高台を目指し歩き出す。


「って、待ちなさいよ。ほんっと鈍いのね」


シスは服を引っ張るように私を引き止めると、川をまた指差した。


「…何か珍しいものでもありますか?」


視線の先を見てみるが、特に変わったものは見当たらなかった。


「川沿いなら村や街があるかもしれないよ?」

「……」


こんな樹海の中に集落が本当にあるのか怪しい所だが…。


「…根拠はあるのです?」

「勘よ、勘。何年彷徨ったと思っているの?」

「まあ、良いですけどね」


溜息を吐いた私を見て、彼女は嬉しそうな表情を浮かべる。


それが数日前の出来事。

虫の声と鳥達の鳴き声が飛び交う朝靄の中、私達は相変わらず彷徨っていた。


「さむいぃ。マジでクソなんだけど」


森を駆け抜けた風がシスの髪を揺らし、彼女は口元をへの字に歪めた。


「いつ人に出会えるんですかね」


それに苦笑を返しながら、目の前に続く鬱蒼と広がる樹海を見据える。

カサカサと風の音だけが鼓膜を揺らしていた。


「もうちょっとよ。もうちょっと歩けば着くはずなんだから」

「昨日も同じ事を聞きましたけど」


はぁと大袈裟に溜息を吐いてやる。

その反応が気に入らないようで、彼女は頰を赤らめながら私を睨んだ。


「うるさい!うるさいぃ!あんたってほんと、ムカつく!」

「…はいはい」

「なによ?ご飯作ってあげないわよ?いいの?いいの?」


シスは拗ねたように唇を尖らせた。


「わかりましたよ。今日も歩きましょう。どうせもう方角なんてわかりませんし」


私は溜息交じりに両手を挙げた。


「ふふぅん。もうちょっと素直になってもいいんだよ?」


食事が弱みと理解したのか、勝ち誇ったような表情で腕を組む。


「また川に沿って歩くんですよね?行きますよ」


それを無視して歩き始めた。


「あっ!待ちなさいよぉ!」


ゴツゴツとした木々の感触を足に感じながら、無言で森を進む。

遠くに鳥達の姿を眺め、傍らの川のせせらぎだけを頼りに進み続ける。


後方ではシスが不満を口にしながら、追いかけてきた。


「…なによ、あのクソ野郎…歩くの早すぎなのよ…ほんっと無神経なやつ…こんなか弱い美少女を置いてくとかマジぶっ殺してやるわ…」


ブツブツと物騒な言葉が続いていたが無視だ。

気にしたら負け…そんな事はここ数日の事でとっくに学習している。


やがて、樹海の中にポツリと佇む小屋を見つけた。


「…ねぇ」


シスが私の袖口を引っ張って囁く。


「…小屋ですね」


だが、人の気配は感じない。


「誰もいないわね」


そう言うと小屋の中へズカズカと入り込んだ。


「手入れはされてるみたいですね」


後を追うように歩みを進める。

小屋の中には作業台や簡易的な釜戸があった。


「猟師が使う小屋ですかね?」


そう呟き辺りを見渡す。

おそらく近くに集落か何かがあるのだろう。

放置されている様子がない事からそう結論づけた。


その時、外から何かが近づいてくる気配を察する。

シスに声をかけようとすると、開いた扉から人影が見えた。


「…ッ!omr!?nnwstr!」


聞き取れない言語を早口で吐きながら、隔てるように立ちはだかった。

白と水色が鮮やかな装束の上に外套を羽織り、目から下が見えない奇抜な風貌の男性。

その瞳には独特の紋様が浮かび、私とシスへと交互に向けられていた。


「…mgy。mrwsmytn」


シスが男と同じ言語で彼に語りかけた。

すると、彼は少し緊張を和らげたようだ。


「言葉がわかるのです?」

「何言ってるのよ。お兄ちゃんも魔族でしょ?」


彼女は訝しむように眉を顰めてそう言った。


「これは魔族の言語?」

「当たり前じゃない?ボケてるの?」

「…私はちょっと生まれが特殊な魔族なんですよ」

「dst?」


私達の会話に男が割って入る。


「いえ…mtnnnstkrr?」

「ああ、tk」


僅かだが聞き取れた二人の言葉。

男は背を向けると、歩き出した。


「街まで案内してくれるって」

「そうですか」


…なんて言ってたんだ?

二人の会話を何度も思い返しながら、男の背中を追った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ