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149話 生と死と

緑の香りと鼻を突き抜ける微かな血の匂い。


「ここ…は…」


草花に埋れた身体は、樹々に覆われた僅かな空を見上げていた。

視線を動かすと、隣にはシスの姿が。


「やっと…起きたのね。死んじゃったかと思ったよ」

「…ああ」


頭がぼんやりするが、どこかに飛ばされたようだ。

呆れた顔をするシスの口元から血が滴っている。


「…?」


視界が晴れて飛び込んできたのは、太い枝に身体を貫かれている姿。

その後ろには不気味な大木が、まるで生きているかの如く枝を伸ばしている。


『カカカ』


樹皮には顔のような紋様が浮かんでいた。

禍々しい吐息がその口から漏れている。


「…ねぇ、痛いんだけど?」

「…ッ!?」


咄嗟に起き上がると、影で大樹を貫く。


ズッ!


重々しい手応え。

内部から燃え上がると共に大木は消し炭となる。

同時に彼女を貫いていた枝もボロボロに朽ち果て、その身を解放した。


「もうちょっと優しく助けなさいよ。女の子なんだけどなぁ」


嫌味ったらしい声が響くが、身体を貫いた穴は広く、明らかに致命傷だ。

それは彼女もわかっているはず。

だが…。


「また死んじゃうのね…」


草花に血溜まりを広げて、力なくその場に倒れる。


「助けますよ…」


倒れ込んだ彼女の身体に触れ、魂の器を探る。

生きてさえいれば、この魔法は人体の設計図通りに再生させる事ができるのだ。


とはいえ、急がなくてはならない。

傷口から血が留まる事なく溢れ続けている。


「無理よ、致命傷…」

「その割に余裕ありますね」


彼女の表情は楽しげだ。


「だって…今度は一人じゃないから」

「どういう…ん?」


疑問に眉を顰めていると、触れている右手が違和感を伝えてきた。


…魂の器が感じられない?


嫌な汗が額を流れ落ちていく。


「いつまで触ってるのよ、変態」

「いや…治そうとしてるんだけど」

「大丈夫よ、すぐ生き返るから…」


私に目を向けて、弱々しく笑う。

彼女の身体から血の気が徐々に失われてく。

その顔は陶器のように青白くなっていた。


そして、シスは瞳を閉じる。

心臓の鼓動は感じられない。


だが…。


黒い霧がシスの身体から空気に溶けるように霞み、溢れ始めていた。


「…ッ!?」


嫌な予感が全身を駆け巡り、思わず後ろに跳びのくと距離をとる。

やがて黒い霧は球状となり、急速に膨れ上がると周囲の魔素を取り込むように渦巻き始めた。

その場の植物が次々と朽ち果て、舞い散っていく。


「これは…魔素を喰っているのか?」


その答えを示すように彼女の身体が修復され、青白い肌に血の気が戻っていく。

破れた服から覗く胸元には、10の数字が青白く輝いていた。


「…使徒?」


その異様な光景に、思わず呟いていたのだった。


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