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146話 争いと再会

数週間後。


「ぶっ殺してやる!!」

「こっちのセリフだ!」


大剣を振りかざす虎髭を生やした男達が、スラム街の先の平野で怒号と共にぶつかりあう。


「おらぁ!」


叫び声と共に繰り出された斬撃は風を薙ぐ音と共に、争っていた男の首をいとも容易く切り裂いた。

周囲に散らばる魔物の死体に、噴き出した鮮血が飛び散る。


「またですか」

「あーあ、痛そぉ」


日銭を稼ぎに週に何回か平野で狩りに出る日々。

その度にどこかで、スラム街の住人が争っているのだ。


——最悪の関係さ


シスは北区と南区の住人が、魔物の減った平野で鉢合わせるからだと、呑気な声で指摘していた。

彼らの手には意志の剣が握られている。


「馬鹿だよねぇ、魔物が減ったら縄張り争いするんだもん」

「はは、人間らしいですね」


小さな丘からその争いを見下ろす。

今まさに最後の一人が殺されるところであった。


「さて、私達も狩りを続けますよ」

「お兄ちゃんも冷たいねぇ」

「誰かが食べすぎるせいで、稼がないといけないんですよ」


サポーターとして働くシスが抗議の視線を向けた時だった。


「きゃああ!」

 

甲高い悲鳴が、丘の下から突如として聞こえてくる。


「なんだ?」


その声は一つではなかった。


「ガキ共も始末しとけ!」


負けた集団のサポーターとして雇われていた少年少女に男達が襲いかかる。

それも何度か見た光景だ。


だが、


——俺はお兄ちゃんだ。間違えるなよ


不意に目に入った見覚えのある茶髪の少女に大剣が振り落とされようとしている瞬間、

 

キイイン!


音を立てて弾かれた大剣に目を見開く男。


「なっ!?」

「……」


身体が勝手に動いていた。


「…チッ」

「お兄ちゃん?」


甘い自分に舌打ちをする。

茶髪の少女は驚いた様子で見つめてきた。


「…てめぇ!?」


ズシャ…


軽く体重を乗せた拳を男の腹に叩き込む。

その拳は何も遮るものがない軽さと共に身体を突き抜けた。


ドサッ


無言で前のめりに倒れる。


「ひぃい」


それを見ていた男達は腰を引く。

そして、震える声で叫んだ。


「ひ、引き上げだ!!」

「魔族だ!」


ズシャ…


「ぐごッ」


断末魔をあげる男達。

数秒とかからず、周囲には物言わぬ骸の山が築かれた。


「お、お兄ちゃん…」


あの少女は戸惑った瞳で私を見ている。

感情の薄いその青い瞳に怯えはない。


「…弱いってのは罪だな」

 

また同じ事を呟くと、少女の頭をポンと叩く。


「帰りな。運が良かっただけだ」

「…ん」


彼女は小さく頷くと、駆け出す。


「優しいんだね」


丘からゆっくりとした足取りで戻ってきたルナがポツリと溢した。


「意味のない気まぐれですよ」

「…だと思った。あの子そのうち死にそうだもん」


短くそう答えれば、ルナは小さく笑みを浮かべ私の顔を覗き込む。


「残酷なお人好し…次は楽に死ねないかもしれないのに」

「…悪いですか?」


小さくそれだけを言う。


「ううん、なら、あたしの事も助けてね?お兄ちゃん」

「なら、金目の物を拾って下さいね。今日の飯代ですから」

「はいはい、あたしを何だと思ってるのよ」


それには答えず、彼女に背を向け歩き出す。

一方的な暴力と掠奪。


…悪くないな。


スラム街出身の彼女との相性は悪くなかった。


——名無しさんはバカだけど、バケモノなのです


遠い昔の友人が呆れ顔を浮かべる日々。

そんな思い出がふと蘇った。


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