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141話 教皇との遭遇

無機質な長い廊下が真っ直ぐに伸びている。

静寂に支配された空間には、その先から漏れるように男女の声が微かに響き渡っていた。


「…猊下…から…」

「な…ね」


気配を殺しながら、その声に耳を澄ます。


「それとギルドから苦情が届きました。スラム街の住人がアレを所持して城壁から侵入しようとしたと」

「住人がですか?」

「アレをスラム街に配るのは、相変わらず反対の立場のようです」


少しの沈黙の後、


「その釈明はいつも通りで構いませんよ」

「魔物から自衛する為ですね」

「ええ、僕たちは…いえ、僕は間違え続けていたんです。いつしか彼らを壁のように扱うなんて…」

「ですが猊下、やはり反乱の目は潰せませんでした」


悲痛な声が反響していく。


「何十年と積み重なった恨みです。仕方ありませんよ」

「…では、計画通りに」

「少し変更はありますが、順調ですか?」

「北区の浸透率が低い点を除けば予定通りです」

「…ゼクスくんの所ですか。彼は勘が良いですからね」

「こちらで方策を考えます」

「ええ、ところで外が騒がしいね」

「結界装置が故障したようですわ」

「…ふむ」


魔力波?

その瞬間、肌を嫌な汗が伝う。


「皆さん、平和ボケしていますね、故障とは…」

「猊下?」


刹那、目前に純白の法衣が揺れ、真紅に輝く細剣が脳天へと振り下ろされた。


「…ッ!?」


転移魔法か!?


身を捻りながら、咄嗟に躱すとインビジブルの魔法を解除する。


見えにくくなっているだけで、見えないわけではないのだ。

特に魔力で捉えられたら意味のない欠陥魔法なのだ。


そのまま後方へ飛ぶように距離を取る。


「まさか避けれるとはね」


黒髪の青年は不敵な笑みで私を見つめ続ける。


「…迷子ですよ」


私は敵意はないと伝わるように笑顔で両手を軽く上げる。


「そうですか。では、お帰りはこちらです」


そう言うと、彼は細剣を液体に変化させ筒へと戻す。

そして、エスコートするようにゆっくりと右手を差し出した。


「……」


疑念を抱いたまま、その笑顔を見つめる。


「迷子なのですよね?お嬢様」


まるで王子様のように彼は片目を閉じた。


…調子が狂うなぁ。


私は小さくため息をつくと、腕を組む。


「こちらですよ」


まるで敵意を感じさせない動作で、右肩に彼が触れた瞬間…。


景色が変わった。


文字通り二人を残して、景色が変わったのだ。


「…やっぱ笑顔は碌なもんじゃないな」


反射的に距離を離しながら、周囲を見渡す。

赤茶色の荒野が広がり、その先には緑生い茂る森が立ち並んでいた。


「貴方が暴れたら、あそこが吹き飛びそうなのでね」


悪びれる事もなく微笑みを向ける青年。


「では、帰って良いですか?」

「ええ」


その瞬間、周囲の温度が急激に下がると無数の氷の刃が出現した。

そして、逃げ場のない身体を突き刺すように貫く。


この魔法は…。


「得体の知れない貴方は、ここで処理した方が良いという結論に至りました」

「話を聞いては貰えないんですね?」


次元魔法でその全てを回避すると、笑顔で問い返す。


「真実を確かめるにも難儀しそうなので」


砕けた氷の刃がキラキラと輝きながら舞う。


「スラム街を焼き払う計画ですか?」


その危険な輝きを飛ばすように、火炎を舞わせる。

水蒸気と共に爆風が周囲を吹き飛ばした。


その前で微笑む青年からは白い湯気が上がり、私を見つめる目は細められる。


「焼き払うわけではありませんよ?」

「スラム街で何をするつもりなんだか…」

「ところで、対処が完璧だったのですが、どこで知ったのでしょう?」


それは…。


——あら?それでも、死なないのね


遠い昔、身をもって経験したのだ。


「アルマ王国の魔法だったはずだ」

「ええ、文献にしか残っていない古の魔法なのですよ」

「なるほどね」


文献にしか残っていないエリー様の魔法を完璧に再現したわけか。

顎に手をやり考え込む青年。


「…初見殺しのはずなんですけどねぇ」

「ああ、よく出来てたよ」


魔力を右手に込めると、笑顔でソレを薙ぎ払った。


ガチンッ!


だが、青年が掲げた左腕が一撃必殺の刃を弾く。


「…見えない斬撃ですか、それも随分な魔力を込めてますね。斬れ味が良さそうだ」

「ドラゴンみたいな真似をするんだな」


全てを斬り裂く刃を魔力で相殺するように弾かれたのは、これで二度目だ。

しかも、竜種と違い無駄なく衝撃波を逃している。


「竜種から盗んだ魔族の技らしいですが、知らないのですか?」

「俺は盗む暇もなかったんでね」

「…古の魔族か…まさか…」

「魔族なら誰でも使えるなんて、言わないよな?」


気づけば両目に魔力を込め、本来の口調に戻っていた。


「誰でもは使えませんでしたね。ところで竜種を倒したなんて言いませんよね?」

「…跡形もなく消しとばしたさ」

「……」


その言葉に初めて青年が目を見開いく。

そして、力を抜いて笑ったのだ。


「ははは、アレを倒せるんですか?…素晴らしい」


どうもこの男は頭のネジが何本か飛んでいるらしい。

まるで緊張感が感じられないのだ。


「アリス…という名ではないですか?」

「なぜ、その名を?」


同時に得体の知れない人物であった。


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