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140話 製造工場

彼の消えた細道を唖然と見つめながらも、教会へと視線を戻すと黒髪の青年が扉を叩いていた。


「…教皇様!?なぜ?」

「ちょっとね。良いかな?」


中から聞こえたのは女性の声。

驚きに混じった喜色に聞こえる。


そして、建物の中へと消えて行った。


「あいつ…」


シスは何かを思い出すように眉間を指先で抑える。


「教皇というのは教会のトップでしょうか?」

「ん〜、そうだった気がする?」


馴染みのない単語に、シスの言葉も歯切れが悪い。


教会のトップが意志の剣の製造現場にねぇ。

出迎えたやつの反応を見れば、急な来訪ってところか。


冒険者ギルドに、正教に、スラム街…。


今まで見聞きした情報を頭の中で整理してみるが、重要なピースが抜け落ちている。


「…見た方が早いな」

「なに?」

「あの中に行ってみようと思いましてね」

「無理無理、関係者以外お断りの場所だよ?」


スラム街の住人なら誰でも知っていると言わんばかりに呆れた顔で私を見る。


「便利な魔法があるんですよ」


その言葉と同時に、魔力の波を教会へ向かって放つ。

そして、すぐにそれらしき塊を捉えた。


「…随分と高い魔力だな」


これだけ高い魔力反応は人族で感じた事はなかった。


「じゃあ、ちょっと行ってくるので」

「…そうやるんだ」


無邪気な笑みを浮かべる少女を背に、私はインビジブルの魔法を発動させると空間を飛んだ。


そして…。


ドンッ!!


「ッ!?」


何かに当たった感触と魔力が弾けるような音が響いた瞬間、視界がぐるっと回転する。


プシュー!

ガタンッ、ガタンッ


硬い床に投げ出された私は、機械音が鳴り響く周囲を頭を抑えながら見渡す。


…ここは?


景色と同化する手のひらを見つめながら、薄暗い空間に目を凝らした。


カシャン、カシャン


私には見慣れた景色。

だが、この世界では初めて見る工場設備。


ベルトコンベアからは銀色の筒が規則正しく運ばれている。

どうやら、座標はズレたが教会内なのだろう。


…何に弾かれたんだ?


そんな疑問を浮かべながら、ベルトコンベアの流れに逆らうように歩く。

それは最初につけた目印の魔力を辿っていた。


カシャン、カシャン…ジュー


ロータリー式の機械が、透明な筒に赤黒い液体を注いでは、蓋をして回転している。


「……」


その見慣れた色を横目に先を進む。

…正直、嫌な予感しかしない。


その先には巨大なタンクが複数のパイプと繋がっていた。

あの液体をここで作っているのだろうか。


完全に無人化されているのか、有人の工程とは切り離されているのか、機械音だけが不気味に響いている。


「まだ先があるんだな」


次の部屋の扉に手をかける。


ガチャッ

ギィィ

 

ドンッ!グチャ!ドンッ!グチャ!


何かが落ちては潰される音が鳴り響く。


グチャ…


飛び出た目玉が機械に押しつぶされて、白濁した液体を噴き上げた。


グチャ…


筋骨隆々の腕が、歪な音を立てて赤い液体を撒き散らして潰れる。


グチャ…グチャ…グチャ…


咀嚼を続けるように人であったものが、肉の塊へと変化し、すり潰される。


「…酷い臭いだ」


千切れた肉片も余す事なく使うのだろう。

何度も何度も循環させては、絞り出している。


——だから、こんな腐った世界に戻りたいなんて言えるのよ


「…知ってたのかよ」


ここにはいない誰かに吐き捨てるように呟くと、先にある魔力に意識を向ける。


——魔族や魔物に大きく劣る私達の希望よ


…実に人間らしい工場じゃないか。


「俺はこんな埋葬は嫌だけどな」


そして、咽せるような死臭の漂う部屋を抜けた。


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