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127話 スラム街の少女

翌日


「放せ!この変態!ぶっ殺すわよ!」


突然響いた叫び声に目を覚ます。

外は既に明るくなっていた。


寝ぼけ眼を擦りつつ身を起こす。

室内には酒瓶が乱雑に転がっているが、シャロンの姿はない。


「あたしに何しようってのよ!」

「…朝から…うるさいな」


甲高い声に窓の外を見下ろすと、道を挟んだ先の石造りの建物に二人の男が入っていくのが見えた。


「誰か助けなさいよッ!」


閉まる扉の奥から悲鳴が聞こえてくるが、やがて静かになる。


「…魔大陸ってのは本当に面白いとこだな」


窓辺に手をかけて、そのまま飛び越えると地面に着地する。

行き交う人々は、これが日常なのか見向きもしない。


「…さて」


正義感の欠片もないが、女性の叫び声を放っておくというのも目覚めが悪い気がする。

いや、ただの暇つぶしかもしれない。

そんな理由をつけると、堅牢な石造りの扉に手を触れた。


ガガガッ!!


重い音が響くと共に、鍵が壊れて扉が開くと足を踏み入れる。

そこは地下に続く階段になっており、奥からは話し声が聞こてくる。


コツン、コツン、コツン…。

 

足音を隠すことなく降りていく。

階段を降りきった先にある大きな鉄の扉を開くと、室内は広く明るかった。


いくつかの牢屋が並んでいるようだ。

その一つに二人の男が立っている。


「ん?」

「おい!?どうやって入ってきた!?」


男達は叫ぶと、すぐに臨戦態勢をとった。


「「魔導錬成!」」

「…うん?」


…魔導錬成?


首を傾げるが、二人の手からは剣が生まれ、有無を言わさず踏み込んできた瞬間だった。


…とりあえず拘束しますか。


ズズズッ


赤黒い影が地面から這い出ると、彼らの足元から身体へと伸び上がる。


「なっ!?」

「クソッ!魔族かッ!?」


影に拘束された男達はもがくだけで精一杯のようだ。


「わぁ!すごーい」


甲高い少女の声が響く。

俺は声のする牢屋の前に立った。


「あ…助けて!こいつらがあたしを無理矢理…!」

「……」


涙ながらに訴える姿はどこか演技臭い。

桃色の髪をツインテールにした少女がそこにいた。

 

年齢は十代中頃だろうか?

薄汚れた白いワンピースを身につけている。

身長も低く可愛らしい顔立ちだ。

 

鉄格子越しに少女の瞳をじっと見つめる。


「…嫌な目をしてますね」

「…え?」


少女は一瞬呆けたような顔をするが、すぐに笑顔を浮かべる。

しかし、瞳は全く笑っていない。

むしろ敵意を向けているかのようにすら感じる。


「…あんた誰よ?あたしは何も悪いことしてないわよ?」


そして、笑顔のままで少女はそう告げてきた。

その急変した態度に頬が緩む。


「…あなた達は?」

「……」


男達は口を噤んだまま睨みつけてきた。

どうやら喋るつもりはないらしい。


…なんか面倒な事に首を突っ込んだみたいだな。


状況がまるで理解できないのだ。

そんな時だった。


コツン、コツン、コツン…。


階段を下りてくる靴音が大きく響くと、見知った顔が姿を表した。

長い茶髪に気怠そうな瞳、スレンダーな体型にギルド職員の服を纏った女性だ。


「…あら?」

「カミラさん!敵襲です!」


男達は目線で、敵が俺である事を知らせる。

しかし、彼女は首を傾げてこちらを見つめてくるのだった。


「…敵なのかしら?」

「…いいえ」


私は笑みを浮かべると、両手を上げながら男達を影から解放する。


「寝てたら悲鳴が聞こえたので、飛び込んできただけですよ」

「…だそうよ?」


その言葉に彼らは疑念の目を向けながら、剣を消した。

カミラはそんな彼らを他所に俺の横を通り過ぎると、少女の牢屋の前に立つ。


「貴方のギルドカードを確認したわ。登録先は旧エルハーム…今はスラム街ね」

「…だから、何?」


鋭い瞳で睨まれても動じる事もなく、カミラは淡々と続ける。


「その耳、混血かしら?」

「お姉ちゃん、こわーい」


おどけた様子で返す少女。

その耳はハーフエルフのように短く尖っていた。


「面倒臭いのは嫌いなの。これをどこで手に入れたのかしら?」


カミラは取り出した銀細工の筒を少女に見せつける。

それは意志の剣のように見えた。


「言ったら帰してくれるの?」


挑発するような笑顔で問い質す少女に、カミラは溜め息を吐いた。


「…めんどくさ」


ザシュッ!!


鈍い音と共に、不可視の何かが少女の右肩を突き刺す。


「キャアアアァァァァ!!」


部屋に響き渡る絶叫が耳を刺す。

ポタッ、ポタッ、という音と共に鮮血が流れ落ちていく。


「…次は斬り落とすわよ」


静かに言い放つと銀製の筒を振るい、腰の鞘に収めた。


「…痛い…痛い…いきなりなによ…頭イカれてるじゃない…」

 

少女は肩から溢れ出る血液を抑えるように疼くまっている。


「うるさいわね…早く答えて」

「…スラム街の雑貨屋」

「…はぁ」


彼女は深い溜め息を漏らすと、私の方を向いた。


「ちょっと良いかしら?」

「嫌だって言っていいですか?」

「…面倒臭いのは嫌いなの」


その言葉に肩をすくめると、ギルドへと連れていかれたのだった。


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