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108話 友人とバケモノと悩み

冒険者の街 歓楽街


大通りから一本奥に入った場所にある、小さな宿の二階の部屋に戻った私は、窓から通りを眺めていた。


夜の街を歩く人々の中には男女が混ざり合い、少数ではあるが獣人や混血種など多種多様な人種がいる。


ただ、この街で最も多い種族は、人族だ。

そんな当たり前の光景を見下ろしながら、窓枠に乗り上げると、腰を下ろす。

 

夜風が、安酒で火照った頬を、優しく撫でていく。

 

「…ふぅ」

 

少しだけ酔い覚ましのために、深呼吸をする。


見上げれば、空には赤い月が輝いていた。

私は、それをただぼんやりと見ていた。


どれくらいの時間が、経ったのだろうか?


「アリス?」


突然の声に振り向くと、部屋の入口には随分飲んだのか、顔を赤くしたシャロンがいた。


「珍しいなぁ?隙だらけだったぜ?」

「…少し飲み過ぎたようです」

「へッ、俺も可愛い姉ちゃん達と飲み過ぎたぜ」


彼女はベッドに寝転がると、頬杖をついてこちらに顔を向ける。


「で、なに見てたんだ?」

「別に、いつも通りの風景ですよ」

「へぇ」

 

私はまた夜空に視線を向けると、彼女はそう呟いた。

そして、そのまま黙って外を眺めた。

 

静寂が流れる。

ただシャロンの視線だけが、私に向けられているのを感じていた。


「なにか、言いたい事でもあるんですか?」

 

私は、彼女に向き直ると尋ねる。

 

「なにが?」

「私の顔をずっと見てましたよね」

 

そう言うと、彼女は苦笑いを浮かべて立ち上がった。


「つえぇとは思ってたけどよ、俺の想像以上だったからよ」

 

その表情は、どこか不安げな印象を受ける。

私は彼女を見つめ返すと、続きを促した。

 

「あの大群を相手にしても、息一つ切らさねぇ。あんな大型共が相手でもな」

「……」

「…正直、俺の自信は粉々だぜ?」

 

酔っているのだろう。

彼女の言葉は続く。

 

それは彼女の心情を表しているのか、その口調は次第に早くなっていった。


「あっちでもな、あんな大群を一人でやれるやつなんて滅多にいねぇんだよ」

「なのに、まるで散歩してきたみたいによ…」

 

シャロンは私を見据える。

そして、彼女の口から聞きたくなかった言葉が放たれた。

 

「…化け物かよ」

「……」

 

シャロンと視線が交差する。

私はどんな顔をしていたのだろうか?

 

「…わりぃ、酔ってるみたいだ」

 

彼女は珍しくばつが悪そうに、謝罪の言葉を口にした。

 

「…人間ですよ」

 

私は視線を外すと、静かに言葉を返した。


「そういう意味で言ったんじゃ…」

 

何かを察したシャロンは弁解しようとするが、

 

「…わかってますよ」

 

彼女の言葉を遮った。

それ以上先は、踏み込まれたくない領域なのだ。


——名無しさんはバカだけど、バケモノなのです


そう言って、蔑んだ目で受け入れてくれる友人が、またできるのだろうか?


だから、私は…


「こんな可愛い子を捕まえておいて、化け物とは失礼じゃないですか」

 

精一杯に明るい声を出す。

それが今、私が出来る最善の行動だった。


その言葉を聞いてなのか、私の笑顔が可笑しかったのかはわからないが、シャロンは一瞬きょとんとした表情を浮かべると、声を出して笑った。


「はははッ、俺らしくねぇな。わりぃ、ちょっと弱気になってたわ」

 

ひとしきり笑うと、そう口にして頭を掻いた。


「飲み直しに行きましょうか」


酒とは便利なものなのだ。

酔わせては気を大きくさせ、記憶を奪うのだ。


「…支払いは?」

 

シャロンは、嬉しそうに苦笑いを浮かべる。


「それは、もちろん準男爵閣下のお力を借りるしかないですね」

「…チッ、着いてきな」


舌打ちしながらも、何処か嬉しそうな彼女は、そう呟いて扉に向かう。


そして、私は彼女の後を追いかけるのだった。


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