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103話 命の対価

翌日


私はシャロンに連れられて、冒険者ギルドに訪れていた。


受付のカウンターには、気怠そうな顔のカミラがいる。

彼女はこちらに気づくと、眠たげな瞳を擦りながら、引きつる口元に無理矢理営業スマイルを貼り付ける。


明らかに嫌がっているが、私にはその原因に心当たりがない。


「なんだよ?そのおもしれぇツラはよ」

「…楽しそうな顔に見える?」

「いや、何かあったのか?」

 

真顔で答えるカミラに、冗談が通じない空気を感じ取ったシャロンは、不思議そうに首を傾げた。


「本部が貴方に首輪をつけるようにってね…いい迷惑だわ」

「なんだそりゃ?」

 

彼女の言葉に、カミラは面倒臭そうに溜息を吐いた。


「殲滅卿には殲滅卿を…専属職員だそうよ」

「カミラが俺の?」

「…問題は起こさないでね」

 

その声からは、不満が溢れ出していた。


「大袈裟なやつらだな」

「本当、迷惑だわ。それで何の用かしら?」

 

そう言いながら、私達に向き直るカミラ。

シャロンは懐から一枚のカードを取り出す。

それを、無造作にカウンターに置いた。


「アリスも出しな」

「ギルドカードですか?」

「ああ」

 

彼女に促されて、私も同じようにカウンターに置く。


「早速、行ってきたのね」

「ああ、更新してくれ」


その言葉に、カミラは二枚のカードを手にすると、奥の部屋へと消えていった。

残された私達はその扉を見つめながら待つ。


「…更新とは?」

「昨日潜ったからな、ランクが上がってるかもしれないだろ?」


——魔素の濃い場所に潜ったり、魔物を倒すと、カードが魔素を吸収するらしいわ


…なるほど。


——カードに溜まった魔素の量を測定して刻むのが、この装置の役割


おそらく、あの装置に通してランクが更新されるのだろう。

そんな推察が終わる頃、カミラが戻ってきた。


「おめでとう、初日の最優秀記録よ」

 

言葉とは裏腹に、その口調は淡々としている。

 

「へぇ…」

 

シャロンは受け取ったカードに魔力を流すと、浮かび上がる数字を見つめる。


「…ランク4か」


私も彼女の真似をして魔力を流してみるが、同じ数字がカードから浮かび上がっていた。


あと16か…。


「ランク20が、魔大陸への切符でしたよね?」

「そうよ、貴方達ならすぐでしょう」

「どうせ、三ヶ月待ちなんだろ?のんびりやろうぜ」


シャロンはカウンターにもたれ掛かりながら、天井を眺める。

それを見てカミラが、苦笑いを浮かべた。


「順番待ちを飛ばす方法とかないんです?」


シャロンの言うように、適当に過ごせば三ヶ月など一瞬だろう。


だけど、


——僕にもわかるよ、憧れや夢だよね


「…そんな方法…」


そう言いかけ、カミラが黙り込む。

そして少し考えるように腕を組むと、思い出すように言葉を紡いだ。


「中層より下、下層部は未踏破。ここの地図作成ができるならかな…」

「下層部ですか…」

「誰が正しい地図って、証明するんだよ?」


考え込む私に、シャロンが疑問をぶつけてくる。


確かに誰が証明するのだろうか?

適当に書いた地図でも、未踏破の下層部。

誰も確認しようがないだろう。


「あら?いるじゃない?銀級の冒険者様がね」

「…俺かよ」


——銀級とはシャロンのような貴族やそれと同レベルの信頼度の人物に発行されるらしい。


「そんなに信頼されるものなのです?」


私の言葉が余程、彼女達の常識から外れていたのか、二人は唖然とした表情で見合わせていた。

 

そして、カミラは私の方を向くと可笑しそうに笑みを浮かべる。

何故、笑われているのかわからずに、私は首を傾げた。


「…貴族の名をかけるのよ?」

「本家にも迷惑かけるしな、不正なんて割に合わねぇよ」

「得られるのが、順番待ちを飛ばすだけだからね」


つまり、それなりの身分の者が補償する必要があるが、不正をする程の魅力がないどころか、バレた時のデメリットが大きいという事か。


私が納得していると、


「私達みたいな余り者はね、文字通り命をかけて手にした爵位なのよ」


そう呟いたカミラの視線が遠くを見るように、細められていく。

私は、その悲しげな瞳から目を逸らすことができなかった。

 


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