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87話 冒険者ギルド本部

王都アルマ 貴族街


その最奥には王宮と賢者の書が保管されている塔が建っている。

白を基調とした外装は、見る者を圧倒する美しさがあった。


…ああ、この景色は変わらないですね。


私は石造りで作られた巨大な正門の前で立ち止まると、ぼんやりと眺めていた。


「おい、そっちには入れないぜ」

 

そんな私に声をかけると、シャロンは正門の横に備え付けられた扉を指差す。

そちらに目を向けると、衛兵らしき男がこちらを見ていた。


「大貴族様でもなきゃ、面倒な手続きが必要なんだよ」

「そうなんですね」

「俺達はこっちさ」

 

彼女はそう言うと、城壁の前の建物を指差す。

そこは、鉄製の大きな柵が立てられており、三階建ほどの高さがあるように見える。

中に入ると庭が広がっていたが、人の気配は感じない。

 

「…冒険者ギルドって感じはしませんね」

「俺も入るのは初めてだからな」

 

シャロンはそう言うと、正面玄関の扉に手をかける。

軋む音を立てながら開いた先は、広いロビーになっていた。

 

正面には大きな階段があり、その手前には左右に通路がある。

かなり大きな建物てある事が伺えた。


だが、冒険者らしい者の姿もなければ、そもそも人の気配すら感じられない。

唯一いるとすれば、右手のカウンターで書類整理をしている職員だけだ。

 

彼女は、私達の姿に気づくと手を止めた。

肩にかかるくらいの茶髪を後ろでまとめ、眼鏡をかけた美人である。

 

「あら?どちら様でしょうか?」

 

綺麗な所作で立ち上がると、愛想笑いを浮かべてきた。


「冒険者になるには、ここでいいのか?」

 

シャロンは臆した様子もなく、身分を証明する為、ステータスを表示する。

 

乱暴な言葉遣いのシャロンに、女性はまじまじと視線を向けると、彼女の顔と身体を交互に見やる。

その視線に気づいたのか、シャロンは顔をしかめていた。

 

「はい、いいえ、シャロン準男爵。ここは本部なので、そういった業務はしておりません」

 

丁寧に答える女性の言葉に、シャロンは頭を掻くと、こちらに向き直った。

その表情は、明らかに面倒くさそうだ。

 

「違うってよ」

「あのエルムで、魔大陸行きの募集を見てここまで来たのですが…」

 

私が言葉を挟むと、女性は驚いたように目を開いた。

 

「…あなたのような小さな子が?」

 

小さな子と言われ、少しイラッとしたが我慢する。

 

「こいつの腕は、俺が保証するぜ」

「はい、準男爵閣下。ただ先程申し上げました通り、ここではそのような受付をしておりませんので…」

 

女性が申し訳なさそうに頭を下げるが、シャロンは気にせず言葉を続ける。

 

「どこなら案内してくれるんだ?」

 

シャロンの言葉に、女性は不思議そうな表情を浮かる。

 

「…閣下は王都に入る際に、冒険者ギルドの事をお聞きになられなかったのですか?」

「ああ、手続きは兄貴がやったからな」

 

シャロンは悪びれた様子もなく答えた。

女性は困った表情を浮かべると、小さくため息をつく。

 

「…王都のすぐ東に、魔大陸行きのギルドがございます。手続きはそちらの方で、お願いします」

「そうか、ありがとな」

 

シャロンはお礼を言うと、踵を返す。

私はそれに続いて、軽く会釈をしてから、その場を後にした。

貴族街を来た時と逆に歩く。

 

「珍しいですね?嫌味の一つも言わないなんて」

 

私が不思議そうに尋ねると、シャロンは苦笑いを浮かべた。

 

「ばーか、俺は女には優しいんだよ」

「私は、男女の区別はしませんけどね」

 

そう言うと、彼女は笑い声をあげた。

 

「おまえ、モテないだろ?」

「…知りませんよ」

 

シャロンの失礼な言葉に、私はため息を漏らす。

 

「おい、今夜も一杯やろうぜ」

 

彼女は私の肩に手を回すと、嬉しそうに笑いかけてくる。


「冒険者ギルドはどうするんです?」

「明日でいいじゃねぇか」

 

私の質問に対して、シャロンは大きくため息をついた。

 

「財布が軽いんですよ?わかってます?」

 

高級店に行けば、金貨が簡単に消えるのだ。

さすが王都…恐ろしい街なのだ。


「魔大陸で生き抜くコツを教えてやろうか?」

 

私の問いに、彼女は不敵に笑った。

 

「何ですか?」

 

思わず聞き返してしまう。

 

「明日なんて忘れちまえ」

 

即答だった。

シャロンが口にした言葉は、単純明快であった。

 

しかし、その言葉の持つ意味を、私はまだ理解出来ていなかった。



 


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