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83話 出会いと別れ

どこまでも広がる草原の先に、蜃気楼かと見間違うほど巨大な城壁。

 

それが視界いっぱいに広がる頃には、すっかり日も暮れてしまっていた。

 

馬車は城門の前で停止すると、雨上がりの夜空の下、松明に照らされた兵士達が出てくる。

バロックは馬車から降りると、身分を証明し、また戻って来た。


そして、城門が開く合図と共に、私達は王都に入ったのだった。

 

「今日は市民街に一泊して、明日貴族街に向かおう」

 

耕作地の先に立ち塞がる内周城壁を見ながら、バロックが言う。

 

「俺達は抜けるぜ」

「シャロン…」

 

彼女の一言に、バロックは悲しげな顔をする。

 

「兄貴達は貴族として行くんだろ?俺達は冒険者になるからな」

「なぁ、やっぱり兄ちゃん達と行かないか?」

 

心配そうに彼女を見る。

 

「おいおい、俺は魔大陸帰りだぜ?」

 

シャロンはそう言って笑うと、彼の肩を叩いた。

そして、私に向き直る。

 

「俺の勘が、こっちの方がおもしれぇって言ってんだよ」

「確かに面白そうですねぇ」

 

本気なのか冗談なのかはわからないが、ソラは笑いながら同意した。

 

「…ソラはくれてやるぞ?」

 

壁に寄りかかるレインは、煙草を吹かせながら呟く。

バロックはそんな彼らを見ると、諦めたようにため息をついた。


やがて、内周城壁を抜けると市街地に出た。

さすが王都というべきか、夜だというのに家々は街灯で照らされ、人々が行き交っている。

 

大通りには商店が立ち並び、活気のある声があちこちで響いていた。

シャロンは馬車を降りる。


私も彼女に続く。

バロックは、何か言いたげだったが、何も言わずに馬車を降りた。

 

「じゃあ、行ってくるぜ」

「シャロォォオオン!!」

 

手を上げる彼女に、悲痛な叫び声を上げるとバロックは覆い被さるように抱きついた。

 

「…大将ぉ」

「阿保ぅが…」

 

ソラとレインは馬車の中から、呆れてそれを見ている。

 

「ったく、兄貴は領主様になったんだろ?」

「…うぅ」

 

情けない涙を流す兄の頭を、彼女は諭すように撫でる。

 

「またソラがキレるぜ?」

「…うぅ…」

 

彼女の声にようやく顔を上げると、鼻をすすりながら離れた。

 

「…じゃあな」

「…シャロン…向こうで待ってるぞ…」

「はははッ」

 

シャロンは楽しそうに笑うと、馬車を背にして歩き出す。

 

「あー、お世話になりました」

 

兄妹の空間に取り残されていた私は、軽く頭を下げると彼女を追う。

 

「気をつけるんだぞー!!」

 

背後から、バロックの大声が響き渡るのだった。


「賑やかな旅でしたね」

 

シャロンに追いついた私は、声をかけた。

 

「兄貴は、うるせぇだけだけどな」

 

彼女は苦笑しながら応える。

 

「ところで、どこに向かってるのですか?」

 

辺りを見渡せば、酒場で酔い潰れたのか、道端で眠っている男達の姿が、ちらほら見えた。

そんな中を、シャロンは真っ直ぐ進んでいく。

 

「…女は好きだよな?」

「ええ、まあ」

 

意味深な笑みを浮かべる彼女に、私は頷いてみせた。

 

「クソ真面目な兄貴がいると行けねぇ店に行こうぜ」

「良いですね」

「あ〜、やっと羽が伸ばせるぜ」

 

そう言うと、大きく伸びをする彼女を見て、私は思わず笑みをこぼした。


しばらく進むと歓楽街に出たようで、派手な衣装に身を包んだ女性が客引きをしている。

 

「さすが王都だ!綺麗な姉ちゃんがいっぱいいるじゃねぇか!」

 

私の隣ではシャロンが興奮した様子で叫ぶ。


口を開かなければ、あなたが一番綺麗なんですけどね…とは、決して言えなかった。


 


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