表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/402

75話 ノース男爵家

朝日が眩しい…。

 

——ここも、奢ってやるよ


——あん?魔大陸でたっぷり稼いできたんだ、構わねぇよ


そんなシャロンの言葉に甘えて案内された部屋は、最上階にある広い部屋だった。

 

1人で泊まるには広すぎる部屋には、天蓋付きのベッドや豪華な家具が並んでいる。

そして、用意された娼婦達は皆、美しかった。

 

散々楽しんだ後、その柔らかなベッドに顔を埋め、気づけば昼下がり。

窓から差し込む日の光が、心地よかった。


昨夜の事を思い返しながら、私はベッドから起き上がると身支度を整える。

着替えが終わると、一階へと降りていく。

ロビーでは、数人の娼婦達が談笑していた。

 

そんな中、一人の女性がこちらに気が付き近づいてくる。

鮮やかな金髪に青い瞳、白い肌に小振りな胸。

…シャロンだ。


「…随分と楽しんだようだな?」

 

私の顔を見るなり、ニヤニヤとした表情で声をかけてくる。

 

「…もう一泊していいですか?」

「ハッハッハ!そんなに良かったのかよ?」

 

私の一言に、腹を抱えて笑い出す彼女に、少し恥ずかしくなってしまう。

 

「…目立ってますよ」

 

私は頰を染めながら答えると、目の前の女性は嬉しそうに微笑んだ。

 

「そんな事、気にするのかよ」

「気にしますよ…」

 

私はため息混じりに答える。

すると、彼女は笑いながら言う。

 

「気にすんな、ここはそういう場所だ」

 

そして、彼女は私をジッと見つめる。

 

「金は払っといたから、行こうぜ」


その言葉に何も言えず、再び歩き始めた彼女を追いかけるように歩き出す。

外へと続く扉を開くと、強い日差しが降り注ぐ大通りに出る。

 

「どうやって、魔大陸に行くのです?」

「あん?冒険者になるなら、王都だろ?」

 

シャロンは呆れた表情を見せながらも、答えてくれるようだ。

 

「では、馬車ですか…」

「それが、ちょいと面倒な事になってな…」

 

珍しく歯切れの悪い彼女の様子に、首を傾げる。

 

そして、城門の前に辿り着くとそこには、鎧姿の兵士が数人立っていた。

その中に、甲冑で全身を包んだ大柄な男が、立っていた。

 

彼は、私達に気づくと歩み寄って来る。

その足取りは、金属の重さを感じさせる事もなく、やがて駆け足に変わっていた。

 

「シャロォォオオオン!!」

 

大声と共に、シャロンに抱きつこうとする大男を、彼女は横に飛び退いて避ける。

 

「阿保ぅが…」

 

それを後ろで眺めていた黒髪の男が、煙草の煙を吐きながら悪態をつく。

黒いコートを羽織った目つきの悪い長身の男だ。


「誰ですか?」

 

私はシャロンに声をかける。

 

「…兄貴だ」

 

彼女は頭が痛いといった様子で、額に手を当てている。

 

そんな彼女を見てか、甲冑の男は私の方を見ると近づいて来た。

近くで見ると分かるが、かなりの巨漢だ。

 

私の頭上高くそびえ立つ身長の彼が近づくだけで、威圧感を感じる。

ただ、その瞳はとても優しげであった。

 

「おお!君がシャロンの友人か!」

 

低く野太い声が響き渡る。

 

「…ええ、まあ、はい」

 

その声に私は、苦笑いしながら頷いた。

この手の手合いは、確実に面倒なのだ。


「王都まで、宜しく頼むぞ」

 

そんな私の様子など気にせず、笑顔で私の手を握ってくる。


「…シャロン?」

「…兄貴達も王都に行くみたいでな、まあ…そう言う事だ」


先程の様子とは打って変わり、疲れた様子のシャロンが答えた。

そんな様子を見て、巨漢の男が口を開く。

 

「俺はバロック、この街の男爵をしている」

 

まるで貴族らしさを感じさせない彼は、豪快な笑顔をこちらに向けた。

 

「あっちは弟のレインだ」

「…フン」

 

レインと呼ばれた目つきの悪い男は、鼻を鳴らすとそっぽを向いてしまった。

 

「おい!レイン!可愛い妹の友人に、その態度はないだろぉおお!?」

 

そう言って詰め寄るバロックの顔は、今にも泣き出しそうだった。

 

そんな光景を眺めながら、私はため息をつく。

…騒がしいのは、苦手なんですけどね。

ただ不思議と嫌な感じがしなかった。


そんな兄弟の姿を眺めていた時だった。

背後に、わずかな気配を感じる。

振り返ると、そこには栗色の髪をなびかせた美少女が佇んでいた。

少女は私と目が合うと、ニコリと微笑む。

 

「あれ?僕の気配感じました?」

 

おかしぃなぁ?と呟く少女。

庶民の普段着に、剣を腰に差している姿はまるで少年のようだ。

 

「…ソラ、イタズラは失敗したようだな」

 

シャロンはそう言うと、少女の頭を小突く。

ソラと呼ばれた少女は、頭をさすりながら口を尖らせていた。

可愛らしい容姿とは裏腹に、どこか不思議な雰囲気の少女だった。


こうして、よくわからないまま私達は城門を潜り抜け、街を後にするのだった。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ