72話 奴隷市場
交易都市ガレオン 奴隷市場
奴隷市場と聞くと、まるで闇市のように薄暗い雰囲気を漂わせていると思うだろうか?
そこら中に檻が並べられ、中には鎖に繋がれた男女の姿があり、鉄格子越しにこちらを睨んでいたりするのだろうか?
そんな想像をするかもしれない。
しかし、ここは違った。
ここ交易都市ガレオンでは、奴隷市場の運営は男爵が管理しており、近隣の貧しい村から、様々な事情を抱えた者が自分を売り込みに来ていた。
遠い昔、繁殖させられて、裸で並べられる彼女らの姿は消えていたのだ。
今、野菜のように椅子に並べられた彼ら彼女らに、奴隷紋は見当たらない。
「おれは、体力なら村一番だ!農作業にどうだい?」
「あたしも、農作業は得意だよ!」
「いえ、農地を持っていないので…」
すっかり毒気を抜かれた私は、目の前の男女に断りを入れる。
「なんですか、これは?性奴隷が見当たらないじゃないですか…」
私は、お人形のような可愛らしい外見に相応しくない言葉を、ため息混じりに呟いた。
そして、また歩き出すと周りから離れて、ポツンと床に座る女性と目が合う。
それなりに綺麗な顔立ちをしているが、目が死んでいた。
「わたしは、見ての通り身体が不自由で…」
彼女は、右腕がなかった。
その姿を見ると、彼女の元へと向かい膝をつく。
「…それを治したら、私の質問に答えてくれますか?」
彼女の耳に囁いた言葉に、女性は目を丸くさせていた。
「えっ?」
「欠損回復のポーションは知ってますよね?」
技術が失われていなければ、あるはずなのだ。
「え…でも、そんな高級品…わたしには…」
突然の事に驚く彼女。
だが、その言葉で私は確信すると、安物のポーションを取り出した。
そして、彼女の胸に手を当てながら、魂の器に魔力を流す。
同時に、彼女の失われた右腕に、ポーションを振りかけた。
光の粒子が集まり、失われた腕が復元されてゆく。
彼女が驚きの声をあげた。
「さて、質問に答えてもらいましょうか?」
私の囁きに、彼女はコクリと頷いた。
「性奴隷はどこに売ってます?それとも、ここにいる女は、そういう目的でも買えるんですか?」
「…!?せ、性奴隷?」
彼女は顔を赤らめ、戸惑いの表情が浮かんでいる。
「あ、あの…そういう方は、奥の個室の方へ…」
「…なるほど」
私は立ち上がると、彼女の指指す方を見た。
「あ、あの…」
「ああ、身体を売る気でなかったのなら、結構です」
私が去ろうとすると、背後から声がかけられた。
振り返ると、先程の女性が立ち上がり、私に頭を下げていたのだ。
「可愛い子が見つからなかったら、あの人とまた交渉してみますかね」
そう言い残して、その先へと向かうのだった。
奴隷市場の奥は、入り口には衛兵が立ち、表とは違い貴族用の来賓室のようだった。
柔らかそうなソファに、見た目麗しい少女達が座り、談笑している。
手前にはカウンターのようなものがあり、そこには白い服を着た男性が、にこやかにこちらを観察していた。
「お客様、美少年をお求めでしたら、隣の部屋でございます」
私の服装を合格と判断したらしいが、見当違いの事を言ってくる。
さすが王女殿下が仕立てた服とローブだなと思いつつ、私は首を横に振った。
「可愛い女の子を探しているんですが」
「さようでございますか」
男は頷くと、どうぞと言うように手で促す。
私はそのまま部屋に入り、いくつかのソファを見渡した。
そして、その中で一つの席に座った女性を見つけた。
少女を卒業したばかりに見えるその女性は、隣の女と和かに談笑している。
隣の女も端正な顔立ちの美女だが、それでも彼女の引き立て役に成り下がっている。
長い金色の髪を後ろで結い上げており、肌の色は透き通るように白かった。
その容姿は妖精のようで、思わず目を奪われてしまうほどだ。
「あの女性はいくらですか?」
私は案内人の男に声をかける。
男は私の指差した先を見て、顔を青ざめさせた。
「あ、あの方は…」
男がそう言いかけた時、金髪の美人がこちらに気づき、立ち上がる。
「あなたはいくらです?」
私はなぜか奥歯をカタカタ鳴らす男を無視して、彼女に聞いてみた。
「…はあ?ふざけてんのか?」
私の笑顔が固まる。
妖精のような可愛い顔で、それに相応しい可愛らしい声色で、まるでゴロツキのような台詞を口にしたからだ。
それが、この先長く短い旅路を共にするシャロンとの出会いだった。




