71話 交易都市ガレオン
交易都市ガレオン
アルマ王国北部、旧ノース侯爵領の北にその都市は位置する。
城塞都市と呼ばれたのも今は昔、そんな懐かしの城門をくぐると、左手には耕作地が広がっていた。
かつては、傭兵達の駐屯地として活用されていた平野だった。
それが、耕作地へと姿を変えている。
「作物が育つ土地は、この辺りだと貴重なんだよ」
ジッとその景色を眺める私を見て、アランがこちらに声をかける。
「そんなに珍しいかな?」
「いえ、普通の都市の風景ですね」
都市の外周部に、耕作地が広がるのは普通の光景なのだ。
城塞都市と呼ばれるような、特殊な都市でない限り。
「ここで、お別れだね」
次の城壁までの道を中程まで来て、アランは馬車を止める。
私が馬車から降りると、アランもそれに続いた。
「王都に行くなら、あそこの市場で商人を探すのが良いと思うよ」
そう言って、アランが右手の方向を指差す。
その先には、いくつかの建物が並んでいた。
遠い昔の記憶が、頭を過ぎる。
だが、それをアランに聞くのは躊躇われた。
…アランが、それをどう思うかなんて、わかりませんからね。
そして、ここまでの旅路で、それに出会っていない。
もう無くなった制度かもしれないのだ。
そんな邪な事を考えてるとは露知らず、アランは微笑んで、右手を差し出してきた。
「じゃあ、いつかまたね」
差し出された右手を眺める。
いつかなんて日は、やって来ないだろう。
この広大な大地で、また出会う事もないだろう。
だから、私は、
「ええ、いつかまた」
差し出された手に、右手で応える。
アランは爽やかな笑顔を、向けている。
そして、御者の席に戻ると、右手を挙げて馬を走らせた。
出会いと別れの繰り返し。
そうやって、皆、それぞれの人生を歩くのだ。
その先に、再び交わる道がないとしても、思い出を抱えて、進むのだ。
「さて、可愛い奴隷はいますかね?」
だから、私は楽しい事を考えよう。
抱えすぎた思い出に、押し潰されないように。
終わりの見えないその道から、逃げ出したくならないように。
足取りは軽く、遠くに見えていた建物が姿を明確にしてくる。
それなりに栄えているようで、商店街のように並ぶ家々の前に、住人や行商人が行き交っていた。
その姿に、昔の面影はない。
まるで違う街に来たみたいに、区画整理された商店が並んでいる。
私は、肉の香りと共に狼煙をあげている露店の前で、足を止めた。
「おじさん、一つ貰えるかな?」
「あいよ!銅貨2枚ね」
下げた腰袋から、銅貨を取り出して、串焼きと交換する。
「この辺りに、奴隷市場はあるのかな?」
「ああ、それならこのまま進めば、一番大きな建物が見えてくるぜ」
ああ、相変わらず人権なんてなさそうな国で、安心しました。
遥か昔は、買われる立場だったのだ。
だが、今の私はそれなりの金貨を持っている。
足りなければ、殺して奪えば良い。
私は、嫌な笑みを浮かべると、その先に向かった。




