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62話 旅路

一夜明け冒険者達の馬車と共に、私達も動き出す。


もっとも荷台で寝ていた私が、それに気づいたのはいつもの昼下がりだった。


ガタガタと響く音と振動に瞼をこすり、御者の席へと顔を出す。


「やあ、おはよう」

「…おはようございます」


照り注ぐ日差しを片手で遮り、同じように眩しい笑顔を向けるアランと挨拶を交わす。


「起こしたら、悪いと思ってね」

「すみません、朝に弱くて…」


ぼんやりとした思考で、あくびを隠すように口元を手で覆い、アランの横に座った。


彼は、そんな私を気にする事なく微笑んでいる。


私達の視界の先には、冒険者達の馬車が昨日と変わらず、列を成して進んでいた。


「街まで、あと何日かかるのです?」

「うーん、この速度だと3日かな?」


彼の言葉になるほどと相槌を返し、城壁のない大地を見渡す。


遠くには、森が姿を現していた。


一陣の風が、木々を揺らす。


森が揺れ、草木が音を鳴らす。


やがて、遮るものの無いその風は、私の髪を揺らし、通り過ぎた。


「…のどかですねぇ」

「はは、そんなに珍しいのかい?」

「ずっと城壁の中でしたからね」


広大な大地の先には、必ず壁があったのだ。

ゆっくりと変わる景色、また遮るもののない先を見る。


「…あれはなんですか?」


馬車の進路とは違う方向に、低い城壁のような囲いが見えていた。


「うん?…ああ、あれは隊商宿だよ」


私の指差す先を見て、アランは当たり前のように答える。


「こんな場所に?」


遠くに見える姿からは、家数軒分の城壁にしか見えないのだ。


「大昔に、エルムに向かう行商人達が、建てたらしいよ」

「今も使われているのですか?」

「もちろんさ、無人だから不便はあるけどね」


そう言って、駆け出しの頃の思い出を話し始めた。


「最初は、近隣の村を回っていたなぁ。故郷の地方はあまり豊かじゃなくてね、必需品を売り歩くだけで、確実に利益は出たんだよ」


懐かしそうにアランは、遠くを眺める。


「利益は出たけど、そんなに儲からなくてね。そんな時さ、エルムの交易ルートに挑もうって思ったのはさ」


多くの行商人が行き交ったのも、今は昔。

珍しい交易品も、当たり前のものになり、行商人が長い旅路に出るメリットが薄れていたらしい。


今では、貴族お抱えの大商人が隊列をなす姿しか見当たらなくなった交易ルートなのだ。


「最近、品種改良されたあの芋が切り札になると思ったんだけどねぇ」


…最初は儲かった。

ただ結果は見ての通りだけどねと、アランは荷台に目を向けて笑う。


「まあ、冒険者を雇う必要がないから、酷い赤字にはならなくて済んだかな」


ゼロス同盟地域からアルマ王国に向かう冒険者達のおかげで、旅の安全度は格段に上がったらしい。


「行商人というのも、大変なのですね」


彼の物語に私は、素直な感想を漏らす。


「仕方ないさ、僕にはこれしか生きる術がないからね」

「…そうですか」


彼の笑みに私は、それしか言えなかった。


「行商人が、大切にしてるものを知っているかい?」


困ったような顔をした私に、彼は言葉を続ける。


「…出会いだよ」

「なぜです?」

「出会いはね、新しい風を運んでくれるはずさ」


遮るもののない大地から、また風が髪を揺らす。


「それは、少しわかる気がしますね」


私は、先頭を進む冒険者達を見る。


「だから、そんな顔をしないで、この出会いを楽しもうよ」


そう言って、アランはまた微笑んだ。


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