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55話 ゼロス同盟

あれから、一ヶ月が経った。


私は週に一度、王女殿下の部屋を訪れては、彼女の話し相手になっている。


王女はソファーに寝そべって本を読む私を、ただ眺めているだけの日もあった。

魔法陣の研究に必死だった彼女は、もういないのだ。


快適なはずの空間。

昔よく過ごした、だらけた日々。


なぜか、居心地の悪さを感じていた。


そして、今日は王妃様に招かれている。

待ち合わせ場所は、試験を行った旧貴族街の屋敷だ。


私はその途中に立つ、守護騎士の像を見上げる。

その像は今日も変わらず、人々を見守っていた。


「私は結局…」


自虐的な笑みを浮かべ、私は屋敷に向かった。


屋敷の扉を開ける。


以前訪れた時と同じように、出迎える者はいない。

ただ以前と違い、魔道具の灯りが屋敷内を照らしていた。


そして、クリスの肖像画だ。

私は、彼女の写真の前に立つ。


——この国を頼むぞ


…私は、まだ必要なのですかね?


数百年ぶりに出た外の世界は、昔よりも随分穏やかだったのだ。


王女殿下に対するキヌスの対応も、支配地域が吹き飛んだにも関わらず、実に友好的なのだ。


そして、人々はあの像に祈りを捧げている。


そんな事を考えていると、背後の扉が開かれた。


「クリスティーナ様が、お好きなのですか?」


ゆっくりとこちらに歩み寄り、王妃は声をかけてきた。


「いえ、綺麗な絵だと思いましてね」


私は、無難に答える。


「ふふ…ご存知ですか?」


私の横で、肖像画を見上げる彼女は微笑んだ。


「代々の国王の肖像画は、先王までしか飾らないのですよ?」

「なるほど?」


何が言いたいかわからず、私は首を傾げる。


「それより前の肖像画は、地下の保管庫に置かれますの」


王妃は、肖像画の前に立ち指を差す。


「名札が貼られていない事もありましてね、もうどなたかわからない肖像画もありますのよ?」

「…なるほど」


彼女が指差す肖像画に、王の名はない。


「…こちらは、私が名札を外したのですよ」


小さい頃のいたずらですのと、王妃は子供のような笑みを浮かべた。

ただの肖像画だと思わせて、この絵を独占したかったらしい。


「…この絵がクリスティーナ様とは、どちらで?」


王妃の表情が変わる。

聞いてはいけない事だと、自覚している顔だ。

それでも、聞かずにはいられないという顔だ。


…なるほどね。


「…移民街で見た事があるのですよ、もっと小さい絵でしたけどね」


私は、嘘をつく。

だが、これが嘘だと断言できるだろうか?

本物の書状が出てきた移民街なのだ。


王妃は私の言葉を聞き、


「…そうでしたのね」


少し悲しそうに、優しく微笑んだ。


「王妃様は、この方がお好きなのですか?」

「ええ、守護騎士物語が好きですの」


彼女は、子供のように微笑む。


「守護騎士様に、お伝えしたい事がありましたのよ」

「…どのような?」

「もうすぐゼロス同盟が復活しますわ」


ゼロス同盟、現在のエルフ、人族、獣人、ハーフエルフが遥か昔に結んでいた同盟だ。


そして、大昔にそれは破棄され、現在の戦乱があるのだ。


「なぜと私が聞いても、宜しいのでしょうか?」

「ふふ、もうすぐわかる事ですから、構いませんわ」


そう言って、彼女は言葉を繋げた。


「魔大陸が発見されましたの…いえ、されてましたわ」

「…ほぅ」


御伽噺に存在する大陸だ。

光の勇者と呼ばれた物語では、アルマ王国の祖先はその大陸から逃げてきたらしい。


「この国が調停都市と呼ばれている事は、ご存知です?」

「いえ」


キヌスやアルマ王国と同盟関係にあり、地理的にも両者の中間にある為、そのような役割が発達したらしい。


「アルマ王国が、援軍を要請してきたのですわ」


その時に初めて知ったらしい。

アルマ王国が、随分と昔に魔大陸を発見しながらも、それを隠していた事を。


おそらく、魔大陸の富を独占しようとしたのだろう。


そして、それが上手くいかなくて助けを求めた。


「…随分、虫がいい話ですね」

「ふふ、そうですわね」


実に人間らしいとも言える。


「ただエルフが動きましたわ」


何百年も戦乱に関わろうとしなかったエルフが、国として動いたと王妃は言った。


「キヌスも同意しましたわ」


伝説の将軍カレンの遺言が、決め手であったらしい。

そして、取り残された獣人も同意した。


「もうこの地で戦争はありませんの…それを伝えたかったのですわ」

「…そうですか」


真剣に語る王妃に、私はそれしか言えなかった。


「…きっと伝わりますよ」


彼女の想い描く守護騎士は、物語の中にしかいない。

彼女達が祈る守護騎士は、あの像なのだ。


だがら、私はそれしか言えなかった。


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