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43話 宿場町

小さな廃墟を背に、私達はまた馬車を進めた。


私は、なぜか馬車から降りなかった、リリスの横に座る。


「どうして、降りなかったのです?」

「上手くやった?」


彼女は、いくつかの言葉をいつも通り飛ばして、投げかける。

レンならノリ半分に会話が成り立つのだろうが、残念ながら私は首を傾げた。


「マブダチ…任せてる」


無表情と平坦な口調に、わずかな特徴が混じる。

不機嫌さだ。


つまり彼女は、私に期待してわざと馬車から降りなかったと理解するべぎだろうか?

端的な言葉と、わずかな特徴から推測する。


まったく無理難題を投げかけてくると思いつつ、私は逃げるように視線を窓に移した。


「あれは、なんですか?」


そんな私の視界のかなり先には、平原には似合わない巨大な建物。


「わからない」


リリスは同じものを見て、呟く。


二人して、平原の先を眺めていると、


「キヌスの育成場じゃないかしら?」


馬を操る王女殿下が、珍しくこちらに声をかけた。

私達は自然と荷台から、御者の席へと近づく。


「育成場というと、エルムのような?」

「ええ、沼を利用した育成場の技術は、大昔にキヌスに伝えたと聞いたわ」

「……」


この前の事を思い出したのか、顔色を悪くするリリス。


「そうですか」


沼と聞いて、遠い昔の旅路を思い出す。

確かあの建物の方角だった気がする。

ただ距離は、こんなに近くはなかったはずだ。


「今夜は、宿場町に泊まるわよ」


王女殿下は、それ以上は興味がなさそうに言った。


……

………


城壁と呼べぬ柵に囲まれた門を抜ける。

キヌスの宿場町だ。


街ではなく町と表される通り、場所によっては数軒の宿と馬小屋しか存在しない。

少し賑やかな宿場町でも、飯屋と町民の家が並ぶ程度だ。


そして、その起源を示すように柵の外には牧草地帯が広がっている。


「治安が心配な城壁ですね」

「城壁違う…柵」

「あなたには、これが城壁に見えるのかしら?」


私の呟きに、二人は嘲笑の言葉を揃えた。


「もし襲えば、周囲の都市から数刻のうちに討伐隊が辿り着くでしょうね」

「覇権国家キヌス…知らない?」

「なるほど…」


あの大将軍は、本当に下地を作ったですね。

王女から手渡された地図を見て、納得する。


大小様々な国家が乱立していた中央より東側、人族の都市国家群が、キヌスに塗り替えられているのだ。


北にはエルフ。

西も巨大な獣人国家が誕生しており、旧ゼロス同盟の地域は三分割されていた。


「戦争は終わったのです?」


地図を見れば、あとは三勢力の決戦しかないのだ。


「お母様からは、ここ数年、戦争はないと聞いているわ」

「…なるほど」

「ただ、大森林の側は通らないようにと言われてるわ。盗賊でしょうね」


傭兵が、食いっぱぐれそうな状況だなと、私は地図に目を落とす。

盗賊になるものもいるだろう。


あそこは、不器用な生き方しかできないやつらの集まりなのだ。


そんな事を考えていたら、馬車が宿の前で止まった。


観光の街の宿と比べたら劣るが、それなりの構えだ。

キヌスの貴族か騎士団しか利用できないというのだから、隊商宿とは比較にはならないのだろう。


そして、王女殿下は、古くからの同盟国という例外を抱えて、宿の扉を開いた。


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