27話 マブダチ作戦
「リーやんは、かわいそうな子なんだよぉぉ」
ピンク色のツインテールの少女が、オーバーアクションで泣き真似をしている。
名前をレンと言った。
「私は気にしてない」
黒髪の少女は、淡々と答えた。
感情の起伏を感じさせない少女は、リリスと名乗った。
私は二人に挟まれ、彼女らの愚痴を聞いている。
主にレンの愚痴をだが。
広々とした部屋は、窓の外を除けば庭付きのちょっとした豪邸だ。
それもそのはず、リリスは公爵家の令嬢であった。
王家の親族のみが就く事ができる、特別な爵位。
だが、
「リーやんは成人したら、国民になっちまうんだよ?」
「問題ない」
公爵家は親族のみ一代限りで、その子供は爵位を譲られる事はないのだ。
「あんな王女様じゃなけ…」
リリスはハッとした顔で、私の方を見る。
「告げ口なんてしないさ。ただ王女殿下に何か問題が?」
私は、彼女の言おうとしている事に興味が湧き、言いかけた言葉の続きを求める。
「普通は次期国王陛下が、公爵家の嫡子嫡女を貴族に召し上げるっス」
「なるほど」
昨日の王女殿下と、黒髪の少女のやり取りを思い出す。
「それで、王女殿下に挨拶をね」
「そうっスよ!それなのにまた無視されて、アタシのフォローがなかったら、危なかったっス」
フーとオーバーアクションで、セーフのポーズを取る。
傷口に塩を練り込むくらいのアウトだった気がするのだが…。
「…そういうのじゃない」
そんな私達のやり取りを眺めていたリリスは、ポツリと呟く。
「リーやんも、めげないねぇ」
「うん」
呆れたようにレンは、リリスの頭を撫でた。
どこか真剣なレンの眼差しは、まるで姉妹のようだ。
「レンも貴族なのか?」
「貴族に見えるっスか?」
彼女は、ケラケラと笑うように答える。
「見分け方なんて、分からないさ」
「…アタシは、公爵家の使用人だよ」
「…違う。親友」
どこか寂しそうに告げるレン。
だが、リリスがそれを否定すると、
「そうっス!マブダチっス!」
「うん、マブダチ」
二人だけの空間を眺め、胸がチクリと痛む。
「でも、リーやん安心するっス!」
「…?」
「王女様の使用人が、マブダチ連合に入ったっス!」
「ふむふむ」
「つまり王女様とお近づきになれるっス!」
「おぉ」
ハイテンションのレンと、平坦な口調で相槌を打つリリス。
「なんだよ、マブダチ連合って…」
「協力してくれるよね?2号さん?」
レンは、悪そうな顔を浮かべ、私の肩に腕を回す。
これは、笑顔の脅迫というやつだろうか。
妙に力強い彼女の腕が、私を拘束する。
「王女殿下は、私の言う事なんて聞きませんよ」
嫌よの一言で、断固拒否する姿が容易に思い浮かぶ。
「学院に誰かと来るの…初めて見た」
「そうっスねぇ」
昨日の光景を、珍しそうに思い浮かべる二人。
…あいつ、根っからのボッチかよ。
「そうと決まれば、王女様とマブダチ作戦を練るっスよぉ!」
「おぉ」
そして、私の意見を無視して、何やら前途多難な作戦会議が始まる。
「私は、この本を読んでますので…」
「リーやん!2号が戦線離脱したっス!」
「2号…頑張って」
そんな二人に愛想笑いを返し、私は本を読み進める。
…
……
………
「本日の会議は、ここまでっス!」
レンが、何やら宣言した。
リリスは、戦線離脱したようで、机にうつ伏せになり寝息を立てている。
私は、読んでいた本にしおりを挟むと、
「お腹も空いて来たので、帰ります」
「また作戦会議をするっスよ」
早々に撤退した私を、気にする事もなく言った。
「覚えていたらな」
そう言って、部屋を出る。
腹時計は、夕方を指していた。
私はそのまま貴族学院の門を抜け、中央の広場に出る。
久々に素の口調で話したなと、彼女達との会話を思い出す。
目の前には、守護騎士の像がそびえ立っていた。
行き交う人々の中には、足を止め、守護騎士の像に祈る者もいた。
「おまえは、雨の日も晴れの日も、ここに立ち続けていたんだな…」
空を見上げる。
「俺は、ただ今日みたいな日を過ごして来ただけか」
空は答えてはくれなかった。




