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21話 魔法陣とフォルトナ神

初等部から高等部に分かれた3つの校舎。

学生達は、そこに吸い込まれように、建物の中へと消えてゆく。


そんな景色を横目に、私達は校舎を通りすぎていた。


「あの子達は、知り合いなのです?」

「知らないわ」


余計な検索はするなの意が込められた一言。

不機嫌さを隠そうともしない殿下に、


「どこに向かっているのです?」


私は、話題を変えた。


「訓練場よ」


そして、不機嫌さを隠そうともしない殿下は足早に進む。


やがて、一つの建物を通り過ぎたあと目的地と思われる建物へと辿り着いた。


建物の中に入ると、受付と思われるハーフエルフが、こちらを見る。


「王女殿下、本日はどのようなご用件で?」


珍しいものを見るように、危険物を触るかのように伺う男。


「一つ空けてもらえるかしら?」


いくつかある訓練場の事だろう。

だが、空いてるか?ではなく、空けてというのが、殿下らしい。


「3番が空いていますよ」

「ありがとう」


そう言い残し、建物の奥へ進み、3と書かれた扉を開ける。

そこは運動場のような開かれた空間だった。


四方が壁に囲まれているものの屋根はない。

奥には的役だろうカカシが立っている。


「王宮の訓練場は使えないから、ここを使うのよ」


私の疑問に答えるように、王女殿下は地面に何かを描き込んでいる。


「…魔法陣ですか?」

「ええ」


黙々と魔法陣を書き込む殿下。


「ミーちゃんはね、キヌス生まれなのよ」

「へぇ」


なぜ、今そんな話題が?と疑問に思いながら、相槌を打つ。


そして、私の反応がつまらなかったのか、また黙々と殿下は魔法陣を描き込む。


やがて大きく描かれた魔法陣が姿を表すと、彼女は手を止めて立ち上がった。


「…できたわ」


大きく描かれた割には、空白が目立つ魔法陣だ。

私は書き込まれたエルフ語に、目を走らせる。


「起動式?いえ、召喚?」

「…これも読めるのね」

「抽象的な文章すぎて、意味はわかりませんけどね」


初めて本物の魔法陣を見て、私は一つの疑問を浮かべた。


「これは、どうやって発動するのです?」

「あら?初歩的な事よ。魔力を込めるの」

「なるほど。初歩的すぎて、初級にも書いてなかったのですね」


珍しいものを見たように、殿下は笑った。


「あなたの反応は、退屈しないわね」

「馬鹿にしてますね?」

「あら?私達、お友達じゃない?」


そう言うと、殿下は真面目な顔に切り替わる。


「…魔力は足りるのかしら」


殿下の身体の周りの景色が、蜃気楼のように揺れる。

魔力を放出しているのだろう。


そして、右手を魔法陣へと伸ばすと、魔法陣が青白く発光した。


円形を周回するように魔法陣の文字が煌めく。


「…今更ですけど、失敗する事はあるのです?」


魔力を放出するように大気を震わせ、煌めく魔法陣を目に、私は疑問を口にした。


「あるわよ」

「…どうなるのです?」

「魔力の暴走で、吹き飛ぶわね」


殿下の言葉に、目の前の幻想的な光景に不安が過ぎる。


「…私達、お友達よね?」


そう言って、殿下は私の後ろへと隠れた。


「友人の定義を…」


そう言いかけた時、目の前の空間が青白く爆ぜた。

大気が震えて、砂埃が上がる。


私は反射的に防御の姿勢を取り、目を瞑った。


だが、衝撃は私の予想を下回り、目を開くと、


「…これは…フォルトナ神?」


巻き上がる砂埃から姿を表したのは、幻想的な光で造られたフォルトナ神の像であった。


女神像とも言い表せるその姿は、ただ静かに魔法陣の上にたたずんでいる。


「…成功よ」


友人を盾にした冷酷な殿下は、私の前に出て、フォルトナ神を満足そうに見上げた。


ただフォルトナ神を浮かび上がらせただけの魔法陣。

そんな表面的な事実を否定するかのような彼女の横顔。


私はもう一度、フォルトナ神を見上げる。


「…わかりませんね」


そして、フォルトナ神が消える。

そこには魔法陣と、不可解な私の疑問だけが残されていた。


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