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20話 貴族学院

旧貴族街を並んで歩く。


貴族学院が近づくにつれ、学生と思われる若年層が増えていた。


「詠唱魔法について、聞きたいですね」


私は、もやもやした感情を払いたいと思い、王女殿下に声をかける。


「あら、丁度良いわね」

「…何がです?」

「前に言ったじゃない?」


——知りたいのなら、学院にでも通うのね


「…ああ」


無駄に記憶の良い頭が、彼女の言葉を再生した。


「その為に、私を連れて来てくれたのです?」

「違うわ。私、学院には、お友達がいないの」


まるで、学院以外には、友達がいるような口ぶりだ。

いえ、ミーちゃんがいましたね。

猫ですが。


「王女殿下なら、さぞ人気者になったでしょうに」


貴族学院とは、階級社会なのだ。

国民は将来の雇用主を見つける為、貴族は将来の部下を見つける為に、我が子を通わせる。


それは親から子に、第一に教え込まれる事であり、王族といえば、その階級社会のトップに君臨する。


「若気の至りね。初等部の頃に色々あったのよ」


同じ道を歩く初等部と思われる子供を、彼女は懐かしそうに眺める。


「色々とは?」

「…愚民共め、とかかしら?」


一部の人達からは喜ばれそうな待遇だが、王女様のお戯れに同級生は距離を置いたのだろうか。


「気に入らない子には、お母様に言いつけるわとも言ったかしらね」


それは、致命的な気がする。


「中等部に入っても、避けられたわ」


当たり前だ。


いつ破裂するかわからない爆弾の横には、近寄りたくないだろう。


将来の王宮勤めが、なくなるかもしれないのだ。

この自覚のない王女様のせいで。


「私って、可哀想よね?」


その芝居がかった言葉に答える事もなく、私達は貴族学院の門を通り抜けた。


昔と変わらぬ建物が、並んでいる。

初等部から高等部に分かれた3つの校舎。


そして、手前には寮だ。


その寮からは学生と思われる人々が、それぞれのグループを作るように、私達の歩く中央の道へと進んでいる。


先程よりも密度の上がった学院内の道を歩けば、やがて何人かの学生が違和感に気づく。


こちらを二度見する人々。

横の友人に囁く人々。

距離を取るように割れる人並み。


その原因が、私の横を歩く王女殿下である事は一目瞭然であった。


「…ふん」


王女殿下は、足を止めて割れる人並みを横目に冷たく鼻で笑う。


目が合ったであろう学生は、青ざめた表情で頭を下げていた。


「…これはなんと言ったら良いやら」

「…くだらない」


私の独り言に反応するかのように、王女殿下は今まで一番冷めた声色で、誰にも聞こえないような呟きを零した。


思わず、並んで歩く王女殿下の顔を見る。


「…私って、可哀想よね?」


彼女はまた芝居がかった作り笑いを浮かべた。

果たして可哀想なのは、どちらなのだろうか?


私はその言葉に愛想笑いを返し、割れる人並みを進む。


畏怖と好奇の視線が交差する。

畏怖は殿下に、好奇はその横を歩く私にだ。


「まさか私を連れてきたのは、この為ですか?」

「なんの事かしら?」


見慣れた畏怖より、見慣れぬ好奇の方に視線が集まっている気がするのだ。


「殿下とは友人の定義を、ゆっくり話し合う必要がありそうですね」


私の言葉に、殿下は静かに笑う。

だが、割れた人並みの先に視線が定まると、その笑みが消えた。


「…?」


王女殿下の視線を追うように、その先を探る。

学生達が私達の行く先を譲るように避ける中、一人の少女がポツンと立っていたのだ。


短く揃えられた黒髪に黒目の少女。

背丈は私と変わらないくらいだろうか?


校舎を背に、こちらをじっと眺めている。

無表情とも取れるその瞳は、王女殿下を定め、私をチラリと見る。


「うん?」


一瞬、少女の漆黒の瞳が、赤みを帯びた気がした。


そして、校舎へと歩みを進める私達は、それを遮るように立つ黒髪の少女の前で止まる。


「…邪魔よ」


王女殿下が口を開く。


「おはようございます」


だが、黒髪の少女は意に介さないように深々と頭を下げた。


「…邪魔よ」


だが、王女殿下はそれを拒絶するように、再度告げた。


一方、その言葉を聞いたはずの黒髪の少女は無表情のまま、その瞳は畏怖も好奇も抱いていない。


「ま、まずいっスよ〜」


その空気を察してか、割れた人並みから、声が上がった。

そして、ピンク色のツインテールの少女が、黒髪の少女の横に駆け寄ると、


「ごめんなさい!ごめんなさい!」

「…謝る、なぜ?」


何度も平謝りするピンク髪の少女と、それに疑問を呟く黒髪の少女。


「あの王女様だよ!?とにかく謝らないと!」


余計な一言を、こちらに聞こえる声量で叫び、またペコペコとピンク色の髪が上下に揺れる。


そんな光景を眺めていた割れた人並みは、野次馬に変わるように囁きが増す。


「殿下、よくわかりませんが、まるでいじめているようですね」

「…迷惑だわ」


殿下は言葉通りの表情を浮かべると、少女達を避けるように歩き出した。


「…私に話しかけないで」


黒髪の少女とすれ違う瞬間、目も合わせず、殿下は少女へと呟く。


そして、振り返る事なく通り過ぎるのだった。



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