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19話 守護騎士と詠唱魔法

あれから、一ヶ月が過ぎた。

もっとも、仕事をした日は両手で数えれるホワイト企業だ。


今、目の前には雇用主である王妃様が立っている。

場所は王女殿下の部屋であり、なぜ王妃様が?と言えば、給料日だからだ。


銀貨20枚。

昔の2倍の給金に心躍ったのも束の間。

国民街の物価も、2倍近く上昇していたのである。


人間とは、欲深い生き物だ。

生きるのもギリギリな生活から、質素ながらも安定した生活に移ったとしても、足るを知らない。


ハッキリ言おう。

また高級娼館に行きたいのだ。


だが、そんな事を言えるはずもなく私は、


「ありがたく頂戴いたします」

「この子の事、宜しく頼みますね」


何を宜しくなのかも、イマイチわからないでいた。

数える程しかない登城も、部屋で本を読み、王女殿下の暇潰しの会話に付き合っているだけなのだ。


「お任せ下さい」

「あなたねぇ…」


現金な私の返答に、王女の呆れた声がこだまする。


「あらあら、すっかり仲良くなって」


私達の空気感を喜んだ王妃は、そう言って部屋から出ようとするが、


「アリスさん、今度お茶でもどうかしら?」

「ええ、喜んでお招きにあずかります」


最後に一言、言い残していくのだった。


「お母様に随分と気に入られているのね?」

「そのようですね」

「心当たりはないのかしら?」


そう言われても、無詠唱魔法が気に入られたくらいだろうとしか答えようがない。


「まったく、ありませんね」

「…そう」


納得した返事を返してくるが、その瞳は疑念を抱いている。


だが、心当たりがないのだ。

王妃様の性癖と好みを疑う以外には…。


「では、今日も本を読もうかと思います」

「今日は、学院に行くから着いて来なさい」

「…学院?」

「ええ、隣の部屋で、これに着替えて来てくれるかしら?」


有無を言わさず渡される上質な生地の服。

確実に女物だ。


「拒否権は?」


ハッキリ言って学院と名前がつくものに、良い思い出がない。

クリスの妹のせいなのだが…。


「貴族学院なのよ?その格好では行けないわ」


使い古したローブと朽ち果てた一張羅。

だが、私が拒否したいのはそこではなく、


「学院に行く事がですよ」

「…私達、お友達よね?」


友達には向けるはずのない悪い笑顔で、王女殿下は微笑んだ。


「ビジネス友人ですよ」

「だから、仕事だわ」


わかったらさっさと支度してと言わんばかりに、隣の部屋へ押し出される。


そして、着替え終わった私は部屋から出ると、


「…悪くないわね」

「悪いですよ」


白を基調とした丈の長いワンピースなのだ。


「もしかして、あの格好が気に入っていたの?」


まさかと驚く王女殿下。


「悪いですか?」

「へぇ…」


私のセンスに答える事もなく、私達は部屋を出る。


廊下に響く足音。


「貴族学院は知っているかしら?」

「名前くらいしか知らないですね」


私が知っているのは、二百年以上前の学院なのだ。


——新しい本が読みたい?ならば、学院に通うのがよいだろう


——お姉様について回る悪い虫が、なぜここにいるのかしら?


嫌な記憶が蘇る。

殺虫剤をかけるような勢いで、特大の炎を出会い頭に撃ち込まれたのだ。


「王族は8歳から通うわ。あとは入学年齢はまばらだけど、貴族や優秀な国民の子供ね」


歩きながら、話す彼女の説明に相槌を打つ。


「初等部、中等部、高等部と分かれていて、どこで卒業したかで優秀さが判断されるのよ」


初等部は4年、中等部は3年、高等部も3年で卒業と昔の学院と変わらない事を確認する。


「王女殿下は、高等部なのですか?」

「そうよ。高等部からは、好きな時に学院に行けばいいの」

「それは気楽ですね」


階段を降りて、厨房を通り過ぎる。


「その代わり卒業は難しいわ」


王族は優遇されるとは言え、加点にも限度があるらしい。


「卒業試験は、どのような?」

「実技か論文ね」


実技は、魔法でも剣術でも軍の指揮でも良いらしい。


「つまり国の役に立つと認められた人材だけが、高等部を卒業できると?」

「察しが良いのね。その通り、王宮勤めになるわ」


そして、私達は守護騎士の像が立つ広場へと出た。


「貴族学院はね、国営なのよ」


民の税金を使っているのだから、還元する義務がある…王女殿下はそう言いたいのだろうか。


立ち止まり守護騎士の像を眺める横顔からは、察する事が出来なかった。


「詠唱魔法は二流って、あなた言ったわよね?」

「ええ、言いましたね」

「守護騎士様は詠唱魔法の開祖と言われているわ。エルムで、そんな事言わない方が身の為よ」


守護騎士が、詠唱魔法の開祖ですか…。

うん?


「私も守護騎士物語は、そこそこ詳しいのですが、そんな記述ありました?」

「守護騎士様が唱えるメテオという魔法は、知っているのよね?」


それはよく存じてますと心の中で、呟く。

私のオリジナル魔法なのだから。


「空から星を降らす、星落としの魔法ですよ」

「そうよ。あのたった一言の詠唱で放つ最上位魔法なのよ」


まるで憧れの人物を見るかのように、王女殿下はいつもの悪態をつく顔を忘れて、守護騎士の像を見上げている。


「だからね、詠唱魔法は二流なんて言葉は、守護騎士様を侮辱しているの」


これから向かう学院では、絶対に言わないようにと彼女は念を押した。


「守護騎士が、詠唱魔法の開祖…?」


私はまだ残る疑問を呟きながら、旧貴族街に位置する学院へと向かう。


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