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12話 王女殿下は友達がいない

懐かしい匂いがする。


家具の配置は変わっているし、新調されているのだが、窓から差す木漏れ日は、あの時のままだ。


空を見上げれば、きっとあの時と同じように、ただ青空が広がっているのだろう。


そして、部屋の中央には机に向かう黒髪の少女の姿。

勉強中なのだろうか、机の上には乱雑に本が重ねられている。


そして、王女殿下と思わしき少女が私の方へと振り向く。


だが、金色の瞳を輝かせ、怪訝な表情を隠そうともしない彼女は、私を値踏みするように、ただ黙ってこちらを見ていた。


「初めまして、王女殿下。本日より教育係として雇用して頂きましたアリスと申します」


私は刺さるような視線をかわすように、優雅に一礼する。

第一印象とは重要なのだ。

働きやすい職場にできるかは、この初手にかかっていると言っても、過言ではない。


「教育係り…ね」


だが、帰ってきた言葉は冷たいものであった。


「お母様がどうしてもと言うから、承諾したけど、あなた、私に何を教えれるのかしら?」


酷い点数…と用紙に目を通しながら、彼女は呟く。

私の答案用紙なのだろうか…。


「…ははは」


私は、苦笑いを浮かべる。

金貨3枚の着手金に心躍らせ、銀貨20枚の給金に目を眩ませたのだ。


なぜ、合格したかという過程より、無難に過ごせば良い生活が送れるという結果が、大事なのだ。


だが、精神的にストレスを感じる職場では移民街の方がマシなのではないかという考えが、頭を過ぎる。


少なくとも金貨3枚で、暫く遊んで暮らせるのだ。


「教えれる程ではありませんが、魔法は少々使えますよ」

「お母様から聞いてるわ。時代遅れの無詠唱魔法ですってね」


なんだろう、この嫌味ったらしい子は…。

私は思わず、


「めんどくさいですね、嫌なら帰りますよ」

「はい?…いえ、それは私がお叱りを受けるわ」


傍若無人な態度が許される立場だったのだろう。

当たり前だ。


だから、私の言葉を聞いて彼女は呆気にとられて、困った顔をした。


そんな彼女を見て、まだ交渉の余地はあるかと歩み寄る。

やはり銀貨20枚は、惜しいのだ。


「王妃様からは、王女殿下のご友人にとも頼まれています。教育係りとして不足でしたら、そちらはいかがでしょう?」

「…友人ね。友人なら先程のような態度も許容されるのでしょうね?」

「ええ」


私の言葉に彼女は、なぜか真剣に考え出し、


「ところで、友人の定義を聞いても良いかしら?」


非常に難しい問題を出してきた。


友人とは、


「…わかりませんね」


私には、もうわからない価値観なのだ。


「…奇遇ね。私にもわからないわ」


だが、意外にも彼女は真剣な眼差しで同意した。


「王女殿下は私をクビにすると、王妃様から怒られるのですよね?」

「…そうね。あんな真剣な顔は見た事がないわ」


彼女は今にも溜息をつきそうな表情で、呟く。


「王女殿下に、ご友人は?」

「ミーちゃんがいるわ」


もしやこの子ボッチなのでは?と思ったが、意外にも友人がいるようだ。


だが、彼女が「ミーちゃん」と部屋に呼びかけると、一匹の猫が姿を現した。


金と青の瞳が特徴的なオッドアイの猫だ。


「ミーちゃん以外には?」

「いないわよ。必要ないもの」


王妃様が真剣にお願いしてきたのが、わかる気がする。

この子、重症だ。


「…事情はわかりましたよ。私は給金が欲しいので、ここはお互いの利益の為に、ビジネス友人という形で、どうでしょう?」

「びじねす友人?あなた不思議な言葉を使うのね?」

「仕事上の付き合いと言う意味ですよ。話し相手くらいにはなれますよ」


私の提案に王女殿下は、


「私の邪魔にならないのなら、良いわ。宜しくね、友人さん」


笑顔を見せる事もなく、納得したように机に向かった。


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