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7話 知的な眼鏡


「着きましたぞ?うん?」


私の姿を見て、首を傾げる御者。


「ああ、感動していられるのですな。わかります。わかりますぞ」


旧貴族街に入れるなど、夢のようですからねと熱く語る。


そんな勘違いに微妙な相槌を打ち、馬車を降りた。


「ここから先は、別の者が案内するはずです」


そう言って、兵士は門へと進むと旧貴族街の中から、一人の女性が歩いてきた。


黒髪が風に揺られ、丈の長いスカートは肌を必要以上に覆い隠すが、大きな双丘が成熟した女性である事を主張している。


「こちらの方ですね?」


美人と呼ぶに相応しい整った顔。

そこにかけられた眼鏡を、右手で軽く押し上げる。


知的な美人だ。

耳は人族である事を示している。


兵士と私の前に立った彼女は、チラりとこちらを確認する。


「では、こちらへ」

「確認しなくて、よろしいのか?」


兵士は、彼女へと問いかけた。

紐で閉じられた羊皮紙の事だろう。


「……」


そして、一瞬の間。


「…ええ、大丈夫ですよ」


なんだったのだろうか?今の間は。


だが、兵士もあっさりと納得すると、私は彼に見送られた。


そして、懐かしい門をくぐる。

その先に広がるのは、やはり懐かしい景色だ。


昔よりも高い建物が増えてはいるが、見慣れた景色だ。


私はキョロキョロと田舎者のように辺りを見渡しながら、横に並ぶ彼女と歩調を合わせる。


そして、すれ違う人々の視線。

使い古した黒いローブのせいだろうか。


まあ、貧民と言っても過言ではない格好ですからね。


心なしか建物の方からも、視線を感じる。


横に並ぶ服装からして、侍従のような彼女とのコントラストが、悪目立ちするのだろう。


「…私の格好、目立ちますかね?」

「…市民の方が来る事のない場所ですからね」


眼鏡というのは、知的さと同時に、冷たさも醸し出すのたろうか。

彼女は一呼吸置いて、考えたように事務的に答えた。


まあ、昔住んでいたのですけどね。

もっと奇抜な格好で…。


そんな事は言えるはずもなく、ただ真っ直ぐと進む。


この先は、小さな広場になっていましたね。

私は昔を思い出し、進むのだが、


「…騎士の像?」


噴水があった場所には、人の2倍はありそうな像が建てられていた。


仮面に覆われ、大層な鎧にマントを羽織った像だ。

手に握る剣は、地面に突き立てられている。


「守護騎士ですよ」


にこりともしない知的な眼鏡は、淡々と言う。


像の前に建てられた石碑には、短い言葉が刻まれている。


——我が命と剣は民の為に


…なるほど、守護騎士様だ。


守護騎士物語の有名なセリフだ。


初版は恥ずかしくて、仕方なかったですね。

あの第二王子が、子供のように良い物語が書けたよ!と、満面の笑みで渡してきたのだ。


もっともタイトルは、女王と騎士だった気がする。


その後、改訂版が出た時は、随分と脚色されていた。

そして、新装版を読んだ時に理解したのだ。


ああ、これは人々が夢見る物語なんだな…と。


そんな事を思い出しながら、私は物語の象徴を通り過ぎ、王宮へ続く正門へと歩く。


「あっ、そちらではありません!きゃっ!?」


物思いにふけて、どうやら彼女を置き去りにしたらしい。


後ろから彼女の呼び止める叫び声と、変な声が聞こえてくると同時に、何かが地面へとぶつかる音がした。


振り向けば、知的な眼鏡はその相棒を地面へと飛ばし、見事に転んでいた。


長いスカートを勢い余って、踏んだのだろうか?


…ドジなのか?


そんな疑念を抱きながら、地面へと投げ出された彼女の相棒を拾う。


そして、痛みに顔を歪めた美人に渡そうと寄るのだが、


「…ん?」


違和感を感じた私は、相棒をかけてみる。


流行のファッションなのか?


「あ、あの…」

「ああ、伊達眼鏡なのですね」


起き上がった彼女に、それを渡す。


「は、はい。賢そうに見えるからって…」


眼鏡とは知的なアイテムだ。

だが、知力を上げる効果などない。


私は最初と随分変わった印象の彼女を見て、愛想笑いで相槌を打った。


「ああ、そちらではないとは?」


そして、彼女の言葉を思い出す。


「…試験場所は、こちらになります」


そう言って知的さを取り戻した彼女に連れられた先は、随分と立派な屋敷だった。


この大きさだと、宮中伯でしょうか?


「どうぞ、こちらへ」


そして、旧貴族街の屋敷へと招かれた。


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