6話 追憶の情景
第五城壁内 市民街
あれから暫く進むと、市民街の入口へと着いた。
さすがに送迎用のまともな馬車が常備されており、私は鉄格子にさよならを告げる。
「…移民街をどう考えているかわかる一幕でしたね」
「…うん?」
御者の席と繋がる小窓が空いてる為、兵士がこちらに振り向く。
「いえ、独り言です」
私は最大限の笑顔で、それを躱した。
そして、先程より随分と広くさっぱりした窓から、街並みを眺める。
前に来てから、20年くらい経ってますかね。
さほど変わらぬ風景と人並みが、眠気を誘う。
城壁なんて夜の闇に潜めば、無いも同然だ。
真っ当な手段でしか、就活ができないなんて、なんて退屈なんだろう。
また人々を眺める。
獣人もいる。
人間もいる。
だが、移民街と比べて圧倒的に数が少ない。
そのせいか、彼らは純血を示す外見をしていた。
「やはりここから先は、私には生きにくいな」
しばらくは生きていけるだろう。
だが、昔のようにやがて居場所がなくなるのだ。
何も変わらない私と、変わりすぎる彼らが違和感を生むのだ。
「まあ、私の居場所なんてもう…」
変わらぬ街並みを眺めて感傷的になっていた私に、突然闇が襲う。
いや、国民街に抜ける城門の中に入ったのだ。
そして、また明かりが差す。
ああ、思い出した。
前に来た時は、ここの書店に買い物に来たのだったのだ。
「銀貨5枚、高かったなぁ」
確かこの先の…
景色が流れていく窓から、それを探す。
「ああ、まだあるのですね」
変わらぬ姿が、そこに映る。
「あの店は…アイリスがガラクタだと叩きつけた鍛冶屋でしたね」
——クロくん、この剣試し斬りしたら折れちゃったよ!酷くない!?
「…おまえが、馬鹿力なんだよ」
遠い昔の幻に思わず呟く。
そして、また景色は流れ、
——お兄ちゃん、これ買って?
「あまり甘い物を食べすぎると、クロードに怒られますよ。太るって」
真剣に悩むフィーナは可愛かったな。
——名無しさん!素晴らしい店を見つけましたよ!
「…飲み放題の酒場ね。おまえ店を潰す気だろ」
——アリスちゃん、はい、あーんして?
「…これが、大使の仕事ですか?」
——マリオン様に恥をかかせるなよ?
「あんたなんで、騎士団長辞めてるんだよ」
——近いから、遊びに来た…
「エリー様、街中で殺気を出すのはやめましょうか」
あの店も…あの場所も…。
視界が滲む。
こんな遠い記憶、とっくに捨てたはずなのに…。
そして、馬車が止まり、
——遅かったな。また寄り道をしていたのであろう?
——人をパシリに使うのは、やめて下さいよ
「ええ、色々ありましてね…」
旧貴族街の門へと到着した。




