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5話 神の姿

第六城壁 城門前


翌日、王宮へと向かう為、高くそびえる城壁前に来た。

来たのだが、


「あなたは、フォルトナ神を信仰しておりますよね?」

「ぜひ、これをお持ち帰り下さい。フォルトナ正教の経典ですぞ」


私の前に聖職者の格好をした男女が2人。

長い旅をしてきたのか、その服装は少し汚れている。


フォルトナ正教。

100年だか、200年前にアルマ王国で派生した教派でしたかね。

確か聖女様に導かれてとかなんとか。


ここ旧ゼロス同盟地域でも、フォルトナ神は信仰されている。

信仰されてはいるが、それは祈りであって、目の前にいる狂信者的なものではない。


「もちろん、神には毎日祈っていますよ」


これは、嘘だ。

私は神など信じない。


いや、こんな無神論者的な事を口にすればエルムの人々からも、石を投げられそうだが、彼らと私では神の認識が違うのだ。


神とは闘技場のギャンブルの時に祈ったり、


「先を急ぎますので」


こういう面倒なトラブルから解放されたい時に、祈るのだ。


そして、祈りが通じたのか、断られる事に慣れているのか、私は解放された。


さて…


目前には巨大な城門が行手を阻んでいる。

開けるつもりがないのか、門番などいない。


だから、その横の小さな扉をノックした。


「何の用だ?」


通路兼兵士の詰所になっている扉が開くと、兵士が一人。


「これを渡せば、わかるそうですよ」


私は精一杯の笑顔で、ソレを渡す。

笑顔とは交渉術なのだ。

そして、それを最大限に活かせる見た目があると、自負している。


「あ、ああ。ちょっと待ってくれ」


これが本物なら、あとは簡単な話だ。


….

……


数刻後


第六城壁内の道に、鉄格子付きの馬車が進む。

見た目通りに罪人を運ぶ馬車だ。


「…はぁ。乗り心地は最悪です」


そして、私はその馬車の中にいた。


——すまないな。これしか常備されてないんだよ


幸いな事にアレは本物であった。

本物であったが、本来第六城壁の中に入れない移民街の市民を自由行動させるわけにはいかないらしい。


つまり移動は馬車のみが許可される。

王宮からの迎えの馬車を手配するなら、翌日以降になると言われたのだ。

お役所仕事に私は、結論を下した。


「まぁ、昔とは違いますからね。身元も不確かな移民街の民ですし…」


この場に彼女がいたら、どうなっていただろう?

兵士が気付けば、瞬く間に衛兵つきの最上級車が来ただろう。


もし気づかなければ、下っ端相手に啖呵を切っただろうか?


——よいではないか。これも冒険であるな。


「いや、彼女はきっと楽しんで、これに乗ったでしょうね」


気を紛らわすように私はそんな妄想を浮かべながら、狭い窓の外を見た。


広大な畑と、その先に霞む巨大な施設。

そして、その施設に向かうであろう兵士の一団だ。


「育成場…やはり、まだ使ってますか」


合理性の塊。

人の恐ろしさの一面を見れる施設だ。


もし、神に博愛なんて精神があれば、真っ先に消し飛ぶのは、あの施設だろう。


「だから、神なんて信じないんですよ」


馬車はまたガタガタと音を立てて進む。



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