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196話 After that

あれから、何年経ったのだろう。

いや、何十年の月日か…。


彼女達の名が刻まれた石碑の前で、私は心を落ち着かせるように、目を閉じる。


自分の心が壊れないように…。

当たり前だった日常を、忘れてはならない日々を思い返す。


当たり前な事が、幸せだった日々。

喪失感で、胸が締め付けられる。


だけど、まだ自分は壊れていない。

それを確認して、後ろの気配に振り返る。


そこには、六芒星を瞳に宿らせた美女がいた。

エルフの特性を色濃く受け継いだ彼女は、実年齢の三分の1以下の美しさを保っていた。


見慣れた姿と、随分と久しい六芒星の輝きに、


「何十年ぶりでしょうか?」


この世の終わりのような暗い表情で、亡霊のように立ち尽くす彼女に声をかける。


…聞きたくない。


嫌な予感が、次の言葉を聞くのを拒絶する。


「…フィーナが、眠ったのじゃ」


重い口を開けた彼女は、聞きたくなかった言葉を呟いた。


…魔族とは人と理の異なる種族よ。獣人とハーフエルフは、人とそう違わぬ


遠い昔の言葉…嫌という程、理解した言葉がまた胸を締め付ける。


「彼女を蘇らす魔法は?」


私は、思わずまた馬鹿な事を口にした。

いや、口にせずにはいられなかった。


「魂の牢獄に囚われて、この苦しみをフィーナにも味合わせるのか?お主も感じているじゃろう」


その言葉に、私は何も言い返せなかった。


「フィーナは精一杯生きて、幸せに眠ったのじゃ」


六芒星の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。


「あなたでも、泣くのですね」

「お主の情けない涙は、見飽きたわ」


頬に手を当てる。

…濡れていた。


「長い寿命を持つ同族が死に急ぐ理由が、やっとわかったのじゃ。戦場で…戦いで生を実感するしかない馬鹿共め」


遥か昔を思い出しているのか、


「儂も戦いの中で、死のうと思う」

「ゼロス同盟だった都市国家が、まだ戦争をしてますよ」


私には興味がない事だと思い、彼女に告げた。


「蟻を潰して、何が楽しいのだ?故郷にはバケモノが、退屈しない数だけいるのじゃ」


クロードの故郷、どこにあるかもわからない魔大陸。

遠い昔、酒の席で聞いた単語を思い出す。


「お主も、儂の旅についてくるか?」


旅とは、魔大陸を探す旅なのだろう。


私は、石碑の向こうに映る城壁を見上げた。


遠い昔の旅物語。


「バカなんですか?」と、悪態をつきながらも世話を焼いてくれる、獣人の少女はもういない。


「お兄ちゃん!」と、私の不器用さを、笑顔で肯定してくれる銀髪の美少女もいない。


「ついて来るがよい」と、根拠のない自信で私の手を引く王女様も…


あの壁を越えて、何かを求める気持ちは、既に消え失せていた。


首に下げられたネックレスを握る。


その鎖は魔力で鈍い光を灯し、その尖端には小さな緋色が薄く輝く。


失くして気づいた、当たり前だった幸せ。

失くさないとわからなかった、馬鹿な自分。


「この国を頼むぞ」


遠い昔の言葉。

彼女が、必死で守ろうとした、この壁の中の世界。

私が、まだ生きている意味。


私は、クロードに首を振る。


——その日——


——長年連れ添った友を2人失くした——


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