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175話 戦争前夜 前編

王都エルム 中心区3階 会議室


政治の間の入り口に、私とクリスは立っていた。

そして、その扉を王女殿下は開く。


その政治の世界は、円卓の間を思い浮かべるように、広い円形のテーブルが置かれていた。


2つの席が空席となっている以外は、全て着席し、開かれた扉の方へと視線を送っている。


クリスは慣れた様子で、その空席の1つ…最奥の席へと向かう。


私もその後に続き、各々の顔を横目に観察していた。

どれも王宮内で見覚えのある顔だ。


クリスが席へと座る。

その横には、もっとも見覚えのある庭園の友人が座っていた。


「遅刻ですぞ、王女殿下」


宮中伯の一人が、クリスへと声をかけた。


「王女殿下、この場に道化を連れてくるのは、いかがかと…」


庭園の友人の正面に座る筆頭宮中伯が、その声に続く。


「疎遠にされた場に急に呼ばれたのだ。よいであろう?」


その2つの声に、王女殿下は何のことはないように答えた。


「…王女殿下」


最初に声をかけた宮中伯は、非難するというよりは困ったように呟いたが、


「…よいであろう」


庭園の友人が、王女殿下の後ろに立つ私の方をチラりと見て、笑うと会議は始まった。


筆頭宮中伯が、私に視線を向け、すぐに庭園の友人へと向き直すと、


「では、国王陛下へ最終報告をさせて頂きます」


庭園の友人に向けられた言葉に、私はやはりそうですかと思い、彼の方を見た。


私の視線を感じたのか、彼は私を横目に見ると笑みを浮かべる。


そんな一瞬のやり取りは、円卓の宮中伯達に感づかれる事もなく、


「…想定外の報告になりますが、敵の兵数は約2万です」

「…ガレオン子爵の軍は、最大でも三千と聞いていたが?」


国王陛下は、想定外の兵数を事実として認識するも、落ち着いて返答する。


「敵軍に紋章旗を2つ確認しました。アルマ王国出身者に確認させたところ、ノース侯爵とガレオン子爵のものだと…」

「…なるほど」

「おそらくノース侯爵全軍にアルマ王国から多数の傭兵が集結したのだと、分析しております」


筆頭宮中伯の言葉に、国王陛下は顔色を変えず思案する。

クリスの表情は、ここからだと見えなかった。


国王陛下の言葉を待つように、場は静まり返っていた。

その静寂の中、国王陛下が、人差し指で机をリズム良く刻む音が響く。


コツ

コツ

コツ


何度かその音が響き渡り、そして、止まった。


「非常事態宣言を出すがよい。予備戦力を限界まで投入。騎士団も、退役した者を集めよ」


国王陛下の言葉に、筆頭宮中伯は頷いた。


「第一軍は、いつ出せるのだ?」

「それでしたら、昨日、第一王子殿下が上級兵士4000と騎士団1000を向かわせております」

「手はずがよいな」


国王陛下は、関心したように呟いた。


「事前の取り決め通りでございます。ただ、そこで斥候から想定外の報告が入った為…」

「王子殿下の軍を引き返させ、籠城という案はないのでしょうか?」


筆頭宮中伯の言葉を遮るように、一人の宮中伯から嘆願のような声が上がる。

筆頭宮中伯は、その言葉に不快を示すように眉をひそめるが、


「古来より籠城とは、援軍を前提にするものであるぞ。我らに援軍はないのだ。まして伸びきった第六城壁では、籠城に不向きであるな」


一度、考察した内容を思い出すように結論を述べる国王。


「国王陛下のお言葉に付け加えさせて頂くなら、都市国家キヌスが、城壁を無効化する兵器を開発しております」


筆頭宮中伯の言葉に、国王陛下は以前の報告を思い出し、頷いた。


「第四城壁まで捨てるしかない上に、敵がそのような新兵器を持っていたら、我らは簡単に負けるであろう」


その言葉を最後に、それを想像した者達が静まり返ったのだった。


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