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173話 いつもの定食屋

国民街 いつもの定食屋


通い慣れた扉を開き、空いているテーブルへと座る。

私の向かいには、アイリスとルルが並んで腰を下ろした。


選ぶ余地があまりないメニューを片手に、それぞれの料理が、テーブルの上へと並べられる。


ルルは料理人の習慣なのか、スープをスプーンですくうと、香りを確認し、口へと運ぶ。


「かぼちゃをベースに…隠し味に葡萄酒と蜂蜜ですか」


そんな呟きを聞きながら、私もスープをすすった。


「…なるほど」


かぼちゃスープが美味しい…としか、私の舌は感じない。


「今日のおすすめ定食も、美味しいね」


アイリスも、私と同じような感想だ。


味を楽しむというよりレシピを分析するように食べるルルを見て、改めて獣人である事を実感した。


味覚と嗅覚が、人族より圧倒的に優れているのだ。


宮廷料理人のNo.2に、破格の昇進をしたのは、この優れた感覚のおかげなのかもしれないな。


これなら、ルルにも作れますと言う彼女を見て、思うのだった。


「ルルちゃん、凄いねー」

「ルルは獣人ですから」


遠い昔に否定的に呟いたその言葉を、彼女は勝ち誇ったようにアイリスに告げる。


「ボクも、少しは料理ができるんだけどね」


ルルちゃんみたいな才能はないなぁと、彼女は笑う。


「いつか自分の店を持つのが、ルルの夢です」


だから、このくらい出来て当たり前ですと、定食をつまみながら言った。


「ボクの夢は、誰かのせいで終わっちゃったしなぁ」


俺の方を見ながら、冗談めかすように告げる。


そして、何かを思いついたのか、


「ねぇ、クロくん。ボクと結婚してよ」


子供のような無邪気な笑みで、彼女は言った。

それを横で聞いたルルは、面白い冗談ですねと鼻で笑っている。


「なんでだ?」

「え?だって次の夢は、花嫁さんくらいじゃん?」


外見は成長しても中身は成長しないのか、子供のように気軽に言う。


いや、環境に順応するだけで、人は誰だって童心のままなのかもしれないな。


大人の服の着方を覚えるだけで、中身はあまり変わらない気がした。

ただ年月を重ねると、大人の服の脱ぎ方を、忘れてしまうのだろう。


遠い昔のようにアイリスと言葉を交わす自分を見て、そんな事を考えていたら、


「一度、二人並んで鏡を見た方が良いと、ルルは提案します」

「…クロくん」


視線をこちらに向けず、バカな事を言ってますねとばかりに食事を続けるルル。

アイリスはその言葉に、可愛そうな子を見る目で、私を見てきた。


私が、大人の服を着れる日は来るのだろうか…。


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