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17話 ノース侯爵令嬢 改稿

ノース侯爵家


アルマ王国の北部、国境隣接地帯を領地とする貴族だ。

爵位は公爵に次ぐ、侯爵位。


公爵が、王族または属国となった元王族である事を考えると、貴族位としては最高位に当たる。

侯爵と名がつく条件としては、いつ戦争が発生してもおかしくない国境隣接地帯である事と、大規模な領地である事が一般的らしい。


そんな侯爵令嬢が、錬金術師エリーの店内、俺の横に座っている。


目の前には、彼女が持参した姿鏡が置かれていた。

鏡を見た事がないと言ったら、すぐに騎士に用意させたのだ。


そこには、金色の髪をなびかせる美少女がいた。

瞳の色は深い青だが、まるで作り物のような綺麗な顔立ちをしていた。

だが、横にはそんな少女を引き立て役にしてしまう程の存在が映っている。


神々しいばかりの漆黒の髪に、白磁のような透き通る肌。

長いまつ毛に大きな瞳、薄紅色の唇、そして整った顔立ちには幼さが残るものの、圧倒的な存在感を放っているのである。


「こう何度も来て、他愛ない話をして、飽きないのですか?」


俺は鏡に映る黒髪の少女の顔を歪ませて、隣のお嬢様に尋ねる。

そんな俺を気にもせず、マリオンは口を開く。

 

「飽きないわね?飽きたら、捨てるし」

「……」

 

冗談なのか本気なのかわからず、言葉を失う。

だが、彼女は気にする事なくカウンターの上に置かれたアップルパイに手を伸ばしている。

 

俺が甘い物を食べたいと言ったら、用意させたのだ。

そんな彼女に俺は問いかける。

 

「私のどこが気に入ったのでしょうか?」

「まずは…見た目ね。綺麗な黒髪に黒目。まるでお人形さんみたいな顔」


そう言うと、フォークを刺したアップルパイを俺の口へと運ぶ。

黙って口を開けて待つことにした。

 

やがて、甘味が口内に広がる。

美味しい…。

マリオンは微笑みながら、俺の顔を見つめていた。


「でも、最近もう一つ増えたの。奴隷なのに卑屈じゃないところ」


ああ、なるほど…。


この世界の価値観に馴染みの薄い俺は、彼女から見れば異質に見えるのだろう。


…貴族だなんて言われても、ピンとこないしな。


人は生まれながらにして平等。

そんな笑えない嘘が、真実のように語られる世界から来たのだ。


「…アリスちゃんを屈服させたら、もっと楽しそう」


そう言って、俺の頭を撫でる。


「屈服ですか…」

「ええ」

「例えば、どのように?」


この頭のおかしい子は、何を考えているのだろうか。

 

「そうね…」

 

考え込みながら、俺に抱きつくように密着してきた。

俺の顔と身体を舐めるように観察する。

 

この子もそれなりに整った顔をしているのだが、身の危険を感じる視線だ。


「私のものになった時に考える楽しみにしとくわ」


そして、官能的な表情で頬を舐めるように、キスをしてきたのだった。

マリオンの口内の熱が伝わり、脳を刺激するような少女の甘い匂いが、鼻孔を通り抜けていく。

 

チロチロと、頬に小さな舌を這わせてくる。

ゾクゾクするような快感を覚えてしまうのだが、彼女は満足そうな笑みを浮かべて離れた。


「…アップルパイがついていたわ」


そして、明らかな嘘をつく。

俺は舐められていた頬を撫でる。


しかし、マリオンはそれを気にする様子はなく、アップルパイを食べ始めた。


「アリスちゃんは、今の生活が気に入っているの?」

「ええ、ご主人様には良くして頂いてます。それに買われた身として、選べるものでもありませんからね」


飼われている身なら、どこに行っても変わらない。

それなら、頭のおかしい貴族より、怠惰なご主人様の方が無害だろう。


唾液のついた頬を撫でながら、そんな打算的な事を考えていると、


「私なら、あなたの望みを叶えてあげられるわ。試しに言ってみなさい。その身と引き換えに、何を望むかを」


芝居掛かった動作で、楽しむように手を差し出した。


マリオンの用意させた姿鏡を見る。

そして、半分に欠けたアップルパイ。


どちらも望んだら、すぐに用意されたのだ。


「そうですね…力が欲しいですね」


だから、彼女のお遊戯に乗ってみた。


——ほんの少しの期待を込めて


「あら、権力かしら?腕力かしら?能力かしら?」


面白い言葉を聞いたとばかりに、嫌な笑みを浮かべる。

きっと彼女は、おもちゃで遊んでいるのだろう。

貴族とは異世界の住人なのだ。


だから、俺も笑みを浮かべて返す。

それが、運命の歯車を回した瞬間だった。





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