159話 闘技場と女剣士 後編
第三試合は、呆気ない幕切れであった。
試合開始直後、魔導師が詠唱で飛ばした炎の弾幕の先に女剣士の姿はなく、次の瞬間、魔導師の右手が飛んでいたのだ。
魔導師の首に、剣を添える女剣士。
そこで、試合終了である。
随分、早い動きですね。
観客には、消えたとしか見えない女剣士の動きを、私は捉えていた。
ただ、今まで見た中でも、圧倒的な速度だ。
そして、剣を首に添える女剣士の目。
人を、殺し慣れている目だ。
人を人と思わず、淡々と斬れる。
鏡で見る私と、同じ目の光を宿していた。
そんな彼女が、こちらに振り返ると、クリスが手で合図をしていた。
「外に出るぞ。ついて来るがよい」
どうやら、フレイラと外で、合流するらしい。
どんな人なのでしょうね?
クリスの後に続きながら、フレイラの姿を思い出す。
そして、闘技場の外へ出ると、フレイラの姿を見つけた。
そこに先程の冷酷な顔はなく、どこかソワソワした普通の女性のようだ。
「久しいなフレイラ」
「はい。こんな場所にいるなんて、ビックリしましたよ!」
笑顔を向けるフレイラが、なぜか私の方を見て言う。
クリスもなぜか、私の方をジッと見てきた。
ああ、挨拶をしろという事でしょうかね。
なにせ私は、知らぬ人から見れば、王女殿下と共にいる謎の少女なのだ。
「はじめまして。殿下の宮廷道化師です」
私は、失礼にならないようにお辞儀をした。
「はじ…」
フレイラは何か呟きかけたが、少し悲しそうな顔をして、
「はじめまして、道化師さん」
と、呟いた。
「フレイラはアルマ王国の出身だが、そなたは知らぬのか?」
クリスの言葉に、闘技場よりも間近でフレイラを観察する。
アルマ王国では、珍しい薄い水色の混じった白髪。
背は私より随分高く…とは言え、私が少女の体型から成長しないだけで、標準的な大人の背丈。
人族ならば、美人の範囲に収まる顔に、私のような少女の面影はない。
死線を潜り抜けてきた腕前に似合わず、肌に傷はなく、女性らしい曲線を描いていた。
「私もアルマ王国出身ですが、特殊な環境にいたので、あまり有名人に詳しくないのです」
すみませんと、頭を下げる。
あれ程の腕前があれば、余程有名なのであろう。
フレイラは、先程より悲しい顔をする。
「違ったようだな?」
クリスが、確認するようにフレイラに声をかけた。
「いえ、王女様に相談なんですが…」
そう返すフレイラに、王女殿下は唇に人差し指を当てて、合図した。
今は、お忍びなのだ。
そして、二人は体を寄せ合い、声を潜めて内緒話を始める。
その内容は、私にも聞こえてこなかった。