158話 闘技場と女剣士 前編
王都エルム 第五城壁内
市民街を抜けた一角に、闘技場と呼ばれる建物がある。
もともとは、決闘裁判に使用されていたが、現在は国民や市民の娯楽として使われていた。
市民街から見えるその姿に、あれは何かと疑問を投げかける私。
答える王女殿下。
そして、行ってみたかったのだと宣言した殿下と共に駆け出した。
闘技場の入口で入場料を払うと、中は人で溢れていた。
中央には対戦表が書かれた巨大な掲示板のようなもの。
魔道具で作られているのか、対戦表のオッズの数字は変化し続けていた。
「賭けれるのですね?」
「貴重な税収であるとは、聞いているな」
田舎者のように対戦表を眺める二人。
そして、掲示板の周りでは、いくつかのお立ち台に乗ったハーフエルフ達が、大声で叫んでいた。
「本日の第三試合の予想だよー!」
「こっちは、今日二連続的中だぞー!」
まるで、競輪場の予想屋である。
そのお立ち台の予想屋に銅貨を渡して、紙を受け取る人々。
「面白そうですね」
「そうであるな!」
人々の動きを観察し終わった私は、横にいるはずのクリスに声をかけるが、声は別の方向から帰ってくる。
そのクリスの手には、予想屋と思われる紙が握られていた。
「相変わらず行動が、早いですね…」
「うん?」
彼女は、広げた紙を熱心に読んでいた。
「私にも、見せて下さい」
「私が読んでいるのだ、待つがよい」
小さな紙を熱心に読み解く姿に、威厳は微塵も感じさせない。
「…ほぅ」
そして、何かを見つけたように呟くと、
「賭ける方は、決まったぞ」
ついて来るがよいと、彼女は窓口へと足を向けた。
「いや…私も自分で考えて、賭けたいのですが」
私の要望は、人々の喧騒にかき消されたのだった。
…
……
………
窓口で券を買った私達は、観客席へと向かった。
ちなみに、私の分はない…
私に任せるがよいと押し切られたのだ。
中央のリングを囲い、段差により、見下ろせる造りの観客席。
私達は空いている席へと、腰を下ろす。
「次は第三試合!魔導師ハートムーンvs剣士フレイラの試合を行います!」
リングの中央で宣言するハーフエルフ。
その声に合わせて、紹介された二人が観客席へと手をあげる。
ショー的な要素もあるのか、二人は手をあげながら、四方の観客席を回るように歩き出した。
魔導師と紹介されたハーフエルフは、それらしい黒いローブを纏いこちらへと顔を向ける。
そして、剣士と紹介されたのは、人族の女性であった。
薄い水色が混じった白髪。
傭兵のような身軽な服に盛り上がる双丘は、大人の女性を印象づける。
紅一点なのか地味な魔導師よりも、女剣士に歓声が集まっていた。
そして、女剣士は、こちらの観客席へと顔を向ける。
慣れた表情で、手をあげながら観客席を流し見る女剣士の視点は、ある一点で止まった。
「…ッ!?」
女剣士と、目が合った気がした。
驚いた顔で、こちらを二度見する女剣士。
その視線は、私と交差している気がする。
「なんで、こっちを見ているのでしょう?」
私はクリスに顔を向けると、彼女は片手をあげて微笑んでいた。
「知り合いなのです?」
「ああ、そなたは彼女を知らぬのか?」
クリスの問いかけにフレイラを見る。
「…知りませんね。有名人なのです?」
「ふむ。そうであるか」
クリスは、何か期待を裏切られた表情を、浮かべていた。