表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/402

157話 市民街

王都エルム 第五城壁内 市民街


背の高い建物が密集した国民街と違い、市民街は発展途上の街であった。


国民街とは異質な下町のような喧騒を横目に、私達はあてもなく歩く。


昼間から軒先で、ハーフエルフと酒を酌み交わす人族の男が目に留まる。


「人族もいるのですね」

「アルマ王国から、人が流れて来るのでな。我らも変わろうとしているのだ」


そう呟くクリスは、物憂げな表情を浮かべる。


「治安が心配です?」

「誰でも、受け入れているわけではないぞ。その点は、心配しておらぬ」


心配はしていないと言いつつ、晴れない顔で人族を見つめるクリス。


「そうであるな…打つ手がなくなったら、そなたに働いてもらう事になるだろう」

「どういう意味でしょうか?」


意味深な言葉に、私は首を傾げた。


「今はよいであろう。この冒険を楽しむぞ」


何かを忘れたいような笑顔で、クリスは駆け出すと、私を手招きした。


「わかりましたよ」


市民街のど真ん中で、王女殿下の悩みを聞くわけにもいきませんしね。


今はただの国民に扮して、お忍びという名の冒険なのだ。


メインストリートの商店街を、ウィンドウショッピングのように歩き渡る。


行き交う人々を観察して、国民街と違い人族が珍しくないと判断した私は、帽子を脱いだ。


そして、焼ける肉の香りに誘われるがまま、一軒の屋台の前に辿り着く。


クリスは少し後ろの雑貨屋で、物珍しそうに何かを手に取っている。


そんな彼女を残し、私は屋台のおじさんに、


「これ、2つ下さい!」

「おう、銅貨4枚だ」


使い古した腰袋から銅貨を取り出し、串に刺さった肉と交換する。


そして、2つの肉を手に、品定めをしているクリスの方へ向かう。


「食べますよね?」

「…うん?ああ、もちろんだ」


私の手を見て、目を輝かせるクリス。

実に安上がりな王女様。

いや、これも、彼女が言う冒険なのだろう。


私達は、人の少ない壁に背を預けた。

そして、侍従長が奇声を発しそうなマナーで、肉にかぶりつく。


ワイルドに焼けた肉は、塩気と共にほどよい脂身の豚肉のような味わいを伝える。


「冒険の味がするな。あの旅を思い出させるよい味だ」


傭兵の街から王都エルムの間で、主食にしていた肉なのだ。

牛肉が当たり前の王宮では、味わえないのだろう。


「私には、自由を思い出させる味ですかね」


銅貨2枚を握り締めた、遠い昔の味。


あの時のように空を見上げる。

あの時と同じように、ただ青空が広がっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ