153話 道化と専属メイド
王宮内 王女殿下の部屋と隣接する一室
私の鳥籠の、4倍はあるだろう間取り。
その広々とした一室には、王侯貴族の暮らしに相応しい調度品。
天幕付きのベッドは、それ1つで私の鳥籠を占拠するサイズなのだ。
私は、壁にデザインされた段差部分を指でなぞり、息を吹きかける。
その姿は、意地の悪い姑のようだ。
「…掃除が、行き届いてませんねぇ」
「お兄ちゃん?」
声を投げかけた先は、この部屋の住人である銀髪の美少女。
「…そなた、何をしているのだ?」
銀髪の美少女の主人は、不可解な顔で首を傾げた。
「いえ、六芒星の悪魔は、随分上手くやったのだと感心していたのですよ」
どこから、ここまでの地図を描いていたのかと、思い巡らす。
傭兵の街で、滅多に姿を出す事のないクロードが、妙に護衛に積極的でしたが…。
「くーちゃんは、悪魔じゃないの!」
クロードに届くように放った私の嫌味に、フィーナは珍しく怒ったような顔を見せる。
「ああ、ごめんね。私の部屋と比べてしまい…つい」
「そなたの部屋は、旧貴族街であろう?」
王女殿下は、六畳一間の現実を見る機会がなかったのか、旧貴族街に住める事自体が、名誉であるのだぞと言う。
「この煌びやかな部屋には、見劣りしますのでね」
「国民街や市民街に別邸を、借りる者もいるぞ。自由に遊びに出れるそなたの部屋の方が、私には羨ましいのだがな」
「怖い侍従長もいないの…」
厳しい教育内容を思い出すように、フィーナは掃除が…とか、作法が…とか、暗い顔で呟いている。
その言葉に、クリスも同情するようにうなずいた。
そして、何かを思いついたように、
「そなたが望むのであれば、王宮内に部屋を用意させるが?」
私はフィーナの憂鬱な横顔を見ながら、眼鏡をかけた侍従長の姿を思い出す。
「いえ、やはり遠慮しておきます」
あの侍従長なら、道化師にも礼儀や作法を仕込んできそうなのである。
「…そなたがいれば、王宮から抜け出しやすくなる名案だと思ったのだがな」
王女殿下が、不穏な一言を呟いていた。




