152話 道化と料理人見習い
「ここは酒場じゃないと、何度言ったらわかるのです?」
「これだけあるんです。1本や2本、バレませんよ」
王宮の調理室
その地下に通じる酒蔵に、私とルルはいた。
「この甘さ、アイスワインでしょうか?」
高そうなラベルに当たりをつけ、飲んだ葡萄酒は、私の舌に特徴的な味わいを知らせる。
「あいすわいん?また、名無しさんの不思議な言葉なのです」
ルルが確かめますと、私の手からボトルを奪う。
そして、豪快にラッパ飲みすると、
「…名無しさん、これは凄いのです。葡萄酒と全然違います」
つまみが欲しいですねと呟く。
そして、調理室へ繋がる扉の方を見上げると、
「何か持ってくるのです」
こちらを見ながら、オドオドするハーフエルフの少年に声をかけた。
「ルルさん、料理長に見つかったらヤバイですよぉ」
「なら、早く行くのです」
扉を押さえて、不意打ちを防ぐ役目を押し付けられた少年に、ルルは指示を飛ばす。
料理人見習いのルルは、盗賊の流儀なのか、その腕っ節で、宮廷料理人の職場のNo.2にのし上がっていた。
腕っ節と言っても暴力ではなく、大量の食材を一人で運んだりと平和的な話だが。
獣人の体力に感心したハーフエルフからは、好評だったらしい。
そして、解体の仕事で基本が身についているのか、料理の腕も上達している事を、私の舌は日に日に実感している。
…名無しさんの生き方を、参考にしたのです…
一ヶ月程前、ハーフエルフの料理人の中で、堂々と働くルルが口にした言葉だ。
荒くれ者ばかりの傭兵の街で過ごした日々と、レベリングで成長したステータスのおかけだろうか?
出会った頃の周りに気を使い、自分を殺す少女の姿は消えていた。
そして、王都エルムで賢者の書に触れた彼女は、確信する。
自分は決して、劣っていないと…。
周りと自分が違う?
ならば、自分の力で、居場所を作るのだと。
「ほどほどにして下さいよ。酒癖悪いんですから」
私から取り上げた葡萄酒をラッパ飲みするルルに忠告する。
「加減は、わかってるのです」
「私が言うのもなんですが、やり過ぎは身を滅ぼしますよ」
ハーフエルフの少年がいた場所に、私は顔を向けた。
その言葉に眉をひそめたルルは、こちらへと向き、
「その時は、名無しさんが助けてくれますよね?」
幸せそうな笑顔で、語りかけてきた。