151話 宮廷使用人
「2つの鐘が鳴ったら、登城するがよい」
クリスの言葉を思い出す、鐘の音が2つ。
仕事の時間だと思い、私は廊下に繋がる部屋の扉を見る。
「ここ、4階でしたねぇ」
私の呟きに、壁は相変わらず、沈黙を返してくる。
階段しかない建築様式の為、上の階ほど不人気なのだ。
そして、例外なく新入りの使用人は、上の階へと回される。
「まあ、私には関係ないですけどね」
窓に足を掛けて、私は四階から飛び降りた。
問題なく着地すると同時に、辺りを見回す。
…誰にも、見られてないようですね。
一昨日、登城しようとしていた使用人に見られ、驚かれたのだ。
どこか浮世離れしたその男性は、空と私を交互に見ながら、天使?と不思議そうな顔で、呟いていた。
そんな事を思い出しながら、王城へ続く道を歩く。
旧貴族街の道には、同じように登城する使用人達が歩いていた。
使用人の格好に似合わず、気品溢れる者。
逆に、庶民を感じさせる者と様々だ。
私はそれらの姿を眺めながら、王宮での一幕を思い出していた。
…
……
………
王女殿下の部屋
「あの者は、宮中伯の二女であるな」
扉の外に立つ女兵士の見た目の違和感を、クリスに問いかけた答えである。
「先程、紅茶を注いだ給仕も、貴族の娘であるぞ?」
首を傾げる私の反応を確かめるように、クリスは言う。
「使用人ですよね?」
「当たり前であろう?」
認識が違うのか、どうにも話が噛み合わない。
「使用人とは、庶民がつく職業ではないのです?」
「出自のわからぬ者が、王宮で働くのか?」
今度は逆にクリスの方が、首を傾げた。
「そういう国もあるのかもしれぬが、我が国では、宮廷使用人は名誉ある職業なのだ」
貴族の子女と才能の高い国民が、学ぶ場所であり、旧貴族街へ住む権利が与えられる憧れの職場らしい。
ちなみに王都エルムには、第三城壁内に住む国民と、その外に住む市民で区別されている。
国民から、宮中伯に破格の出世をする者もいれば、やらかして貴族から国民へ、転落する者もいるそうだ。
そして、国民がやらかせば、市民へと転落する。
「もっとも、物好きな貴族の中には、自分から国民へなる者もいるがな」
「なるほど」
ただのメイドだと思って、軽口を叩いたら伯爵様の娘さんという事が、普通にあり得るのか。
気をつけようと思いつつ、私って道化師らしいから別に許されるのかな?と、妄想するのであった。