130話 隊商宿
「随分とチグハグな馬車だね」
使い古された荷台とたくましい馬を見て、隊商宿の使用人が声をかけてきた。
「傭兵の街から来ました」
「ああ、それでかい」
使用人は、妙に納得する。
傭兵の街とは、どんな印象を持たれているのでしょうね?
「お嬢ちゃん、傭兵かい?」
私の腰に下げた剣を見て、問いかける。
「ええ、そうですよ」
「へぇ、何人斬ったんだ?」
「千人は超えていますかね?」
先程の騎士団や盗賊時代の仕事を、ぼんやりと思い返してみる。
「はははっ、そいつは凄腕の剣豪様だ。酒のつまみに、武勇伝を聞きたいものですな」
「まあ、機会があれば」
冗談と受け取ったようで、使用人は盛大に笑い声を上げていた。
「それで、今夜の酒代と言いますか、馬や荷台の見張り賃と言いますか…」
両手を揉むように、ごまをする使用人。
私は銅貨を10枚程取り出し、握らせる。
その様子を見てクリスは、慣れたものだと感嘆を漏らした。
ルルも、少し驚いたように関心している。
そして、私達は隊商宿へと入って行った。
…
……
………
「馬の餌代と世話代で、1泊銅貨15枚だ。あん?使用人にもう払った?あの馬鹿、またやりやがって!」
強面の主人が、怒鳴り声を上げる。
そんなやり取りを見ていたクリスとルルの視線が、冷たい。
「お兄ちゃん、騙されたの?」
そして、慰めの言葉を放つフィーナの一言が、私にトドメを刺した。
「まあ、チップだと思ってくれよ」
「…はい」
今更、返せと言えば、格好がつかない。
「あんたらの部屋は、どうする?大部屋は安いが、女子供にはオススメしないぜ?」
「個室で、お願いします」
「じゃあ、6人部屋が空いてるからな。1泊銅貨40枚だ」
もはや、何が適正価格かわならないが、これ以上恥をかきたくないので、大人しく払う。
昔、隊商宿に行った時は、泊まらなかったからなぁ。
あの時、宿泊システムを聞いておけば良かったと思いつつ、鍵を受け取ると2階へと上がった。
そして、部屋の扉を開ける。
「これは、斬新な寝室ですね?」
その光景に、ルルが嫌味を飛ばす。
「冒険譚のようで、よいではないか?」
クリスが、斜め上の感想を呟く。
「…床で寝るの?」
フィーナが首を傾げるように、部屋には何も置いていなかったのだ。
…
……
………
「あん?ベッドだ?」
3人を部屋に残し、主人に確認を取る。
「そんなの別料金に、決まってるだろ?」
「…そんな」
私の困った顔が、少女の泣き顔に見えたのか、主人は慌てる。
そして、隊商宿に泊まるのは初めてか?と、優しくシステムを教えてくれるのだった。
まさか盗難や破損の保証金の為に、部屋と布団は別料金だとはね…。
治安って大切なんですねと、元の世界のホテルを思い出すのであった。




