129話 我思うが故に…
…そなた…何者なのだ?
震えた声の王女殿下の言葉を聞き、私は立ち止まる。
ルルはいつもの調子で、私をバケモノだと言った。
否定はしない。
少なくとも、人とは違う魔族らしいですからね。
ただ、何者かと問われた時に、私は返す言葉が思いつかなかった。
私はただ、精一杯生きてきただけなのだ。
「さて、何者なんでしょうね?」
両手をわかりませんとばかりに上げ、
「私が、怖いですか?」
クリスの瞳を、真剣に見つめる。
だが、その瞳に恐怖の色はなく、
「驚いただけだ。この程度の事、受け止められねば、私の主としての器が、疑われよう」
「…私を騎士にしたいって言葉、本気なのですね?」
「私は冗談で、自分の騎士を選びはせぬ」
真剣に見つめ返された王女殿下から、視線を外す。
「騎士って、何の話しでしょうか?」
またルルを仲間外れにしてます?と、野次が飛んできた。
…
……
….……
騎士団と馬の死体を、土で覆い証拠隠滅を終えると、ラクバールに属さない都市国家の城門をくぐる。
先程の騎士団の魔法が鳴り響いたのか、城門は騒がしかったが、少女だけの一行は、軽い荷物検分で問題なく通り過ごしていた。
「お嬢ちゃん達だけで、東へ行くのかい?大丈夫か?」
心配する兵士に、愛想を振る舞う。
二重城壁の都市国家は、旅人に市街地への入門は許可していなかったが、外周地での移動は自由であった。
交易都市クーヨンを思い起こす、のどかな田園風景を横目に、
「隊商宿を、探しましょうか」
「「隊商宿?」」
クリスとルルの声が重なる。
「呼び名は違うかもしれませんが、旅人の為の宿があると思いますよ」
「お兄ちゃん、物知りなのです」
フィーナが、羨望の目を向ける。
クリスが関心したように、うなずいた。
そして、私は、泊まるのは初めてなんですけどね、とは言い出せず、ルルだけが怪しんだ視線を送っていたのだった。