128話 混合軍と黒髪の少女
数百の屍が、鮮血の海と共に、草原へと散らばる。
それら全ては、硬い鎧を嘲笑うかのように、上半身と下半身が切断されていた。
「…そなた…何者なのだ?」
王女殿下の震えた声が、全てを物語っていた。
「ルルは、バケモノだと言いました」
ソレを見慣れているルルは、平然と呟く。
…
……
………
数刻前
第七王子 混合軍
指揮官の隊長は、カレンが地図で指示した場所へと、軍を配置した。
隣国の都市国家から西へ、都市国家を刺激しない程度の距離を保った、何もない草原だ。
「この場所から、東へ入ってはいけませんよ。それ以外に遭遇するとすれば、盗賊や魔物の類ですが、この兵数なら問題ないでしょう」
そして、カレンの言葉を信じるなら、配置から数刻で王女殿下の一行が、西からやってくるはずである。
智将の予測を、疑う者はいなかった。
ただ、凡人は疑問を呈する。
「たかが馬車1台の傭兵に、この兵数は過剰では?」
「国境なので、不測の事態に対処できるようにする為ですよ。それにこの軍勢なら、打算的な傭兵の事ですから、大人しく諦めてくれますわ」
その言葉を思い出して、数刻。
カレンの予測通り、西から一台の馬車が現れる。
「そこの馬車よ、止まれ!」
「我らは、キヌス第二騎士団である!荷台を検めさせてもらうぞ!」
大柄の兵士が、まだ遠くに位置する馬車に、よく通る声で叫ぶ。
そして、馬車が止まると、一人の黒髪の少女が降りてきた。
まだ幼さの残る顔立ちに、あれが傭兵か?と、疑問を投げかける者がいる。
だが、少女の瞳が赤く変色した時、副長の魔導師が叫んだ。
「馬鹿な!?魔族だと!?」
副長の言葉に、聴き慣れない単語が含まれていると感じる中、少女が腕を横に振るう。
そして、信じられない事に、騎馬隊の先頭が斬り落とされた。
「遠距離魔法か!?」
「突撃せよ!」
見た事もない遠距離魔法に恐怖を感じ、思わず突撃の指示を下す。
だが、突撃したその全ては、少女が腕を振るう度に、悪夢のように胴体と別れを告げた。
魔術師の風と炎の一斉射撃が、空を舞う。
本来なら、騎馬隊の突撃前に行うはずのものだ。
文句の一つも言いたくなるが、戦場は混乱していた。
だが、それも少女が手をかざすと現れた、巨大な土壁に塞がれる。
そして、砂埃の舞う中、少女の姿を探すと…
「馬鹿な…」
黒髪の少女は、瞬間移動したかのように距離を詰めて、騎士団の中心に現れた。
少女が、回転するように舞う。
鋼鉄の鎧を纏った騎士も、法衣に身を包んだ魔術師も、全ては鮮血の海に沈んだ。




