127話 遭遇
傭兵の街から、東に進んだ街道
私達はあれから、三度の夜を越えた。
戦乱のなかった時代に作られたと思われる街道は、整備する者もいない為、草原と区別がつく程度の踏み固められた道である。
馬車とは言え、速度は人が早足で歩くより早い程度。
今、自分達がどこにいるかの頼りはルルの方向感覚と、この道が正しい事を信じるのみである。
「ルル、馬を止めて下さい」
サーチ魔法で、この先を探った私は、無数の反応を感じてルルに声をかける。
そして、念の為もう一度サーチ魔法を飛ばす。
「100以上の数が、この先を集団で移動しているようです」
規則正しい動きから、街ではない気がする。
「可能性は、何であるか?」
クリスが、この集団の正体の可能性を聞いてきた。
「魔物の大群、難民、ラクバールまたは周辺国の軍隊、あとは沼でしょうか?」
「先の3つは想像がつくが、沼とはなんだ?」
そう問いかけるクリスに、私は傭兵の街で情報屋のアンナから聞いた話を、思い出す。
「私も見た事はないんですけど、滅ぼされた街や村がごく稀に魔力だまりになると、屍人…グールの集落になるらしいですよ」
「ふむ…なぜ沼と呼ぶのだ?」
クリスの疑問に、私は沼の由来を思い返していた。
「それは、あまり気持ちの良い物語ではないのと、今は、この先をどうするか考えるのが、良いのではないですかね?」
「…そうであるな」
クリスは、街道の先を見つめる。
そして、私ののんびりした表情を確認すると、
「そなたはそのどれであっても、問題ないのだな?」
「たぶんですけどね」
「名無しさんは、バケモノなのです」
私の曖昧な答えに、ルルがジト目でツッコミを入れてきた。
「それより、ラクバールの騎士団だった場合は、クリスが何をやらかしたのか、興味が湧きますね」
基本的に依頼人の事情は聞くなと、マキナが言っていた。
依頼人が傭兵に求めるのは、武力のみだからである。
「私は、何もしていない」
そして、思い返すように何も出来なかったしなと、悔しそうに呟いた。
今はこれ以上、聞くのは良くないかな。
信頼関係が希薄、そんな風に考えていると、
「それで、どうします?」
ルルが、馬をなだめるように撫でながら、問いかける。
「迷ったら進む。私はそう決めている」
「シンプルですねぇ」
私の言葉が褒め言葉に聞こえたのか、クリスは、
「そなたが、問題ないと言っているのだ」
そうであろう?と、まるで自分の騎士に絶大な信頼を寄せる主のように、返してくるのであった。