126話 ハーフエルフ
深夜に一旦、馬を休ませる為、暖を取る。
そして、一夜明け、馬車は相変わらず東へと進んでいた。
見通しの良い日中という事もあり、御者の席にはクリスが座り、話し相手としてフィーナも並んでいた。
ルルは荷台の中で、寝袋に包まり仮眠中だ。
私は燃費の悪いサーチ魔法で、周囲を探り、問題ない事を確認すると、二人の会話に耳を傾ける。
「クリスちゃんは、あの大きな壁の中に住んでいるの?」
「王都エルムの事であるか?」
「うん!くーちゃんが、そこに行くって言ってたの」
楽しそうに話すフィーナ。
「そうだな」
「あの中に住めるのかぁ」
何かを思い出すように、フィーナは呟いた。
「何か思い出でも、あるのか?」
「フィーナが小さい時に、木の実を拾いに行ったの。大きな壁があって、お父さんに聞いたら、もう帰れない故郷だよって言ってたから…」
「そうであったか…」
楽しそうに話すフィーナと裏腹に、クリスの顔が曇る。
「家族も共に、王都エルムに住みたいのか?」
クリスの言葉に、フィーナは、
「くーちゃんが、それは望んじゃダメって言ってるの。それにフィーナの家族は…」
「それ以上は言わぬでよい」
フィーナの言葉を遮り、クリスは、
「確かに今の私の権限では、お主の身分を偽る事しかできぬ。法の改正は、私の権限では及ばぬからな」
「…けんげん?」
「ああ。だが、未来の私は、そなたのような者が現れないよう、法の改正を約束しよう」
「うーん?がんばってください?」
よくわかっていないフィーナは、無邪気な顔で応援する。
「礼には及ばぬ。外の世界で、初めて村を見た時に考えていた事なのだ」
そう語るクリスの言葉には、威厳と決意が込められていた。