125話 外伝 第七王子とカレン
「全軍出撃せよ!」
都市国家ラクバール
第七王子の館の一室に、主の声が響き渡る。
「殿下、却下です」
その一声をカレンは、すぐさま止めた。
部屋には、魔導師と騎士隊長と第七王子、そしてカレンの姿。
二人は魔導師が魔力を送る、鏡のような魔道具を見ていた。
その魔道具に映るのは、夜の街道を進む、王女殿下を載せた荷馬車である。
視点は鳥。
(まったく、便利な魔道具ですね)
100年余りの戦争は、技術を飛躍的に進化させた。
その中でも、智将と呼ばれるカレンは、海の物とも山の物ともつかない技術者や魔導師を、数多く雇い入れたのだ。
「情報が、全ての始まりです」
大量の給金を渋る第七王子を、説得した言葉である。
最後の決め手は、蹴りであったが…。
そして、その成果が、目の前に映像として現れている。
まだ量産もできない試作品であるが、カレンは戦争の在り方を変える事ができると、確信していた。
(技術革新を目的に、意図的にこの戦争を始めた者がいるとすれば、悪魔のような狡猾さでしょうね)
カレンは、そんな事を思いながら、鏡を見つめる。
騎士団の一隊が、王女殿下発見の狼煙を上げた時に、すぐに飛ばした魔道具が、街を出る王女殿下達をずっと尾行している。
「カレン!王女が、逃げてしまうぞ!」
「殿下が王都近郊で、全軍展開をしたおかげで、王宮が騒がしくなってましてね」
カレンは、芝居がかったように額を抑える。
「それは、おまえに何とかしろと、命じたはずだ」
「ええ、陛下を始め胃が痛くなるお方達の前で、いつものご乱心ですと泣いてきましたよ」
「…そ、それは大儀であったな」
カレンの泣き真似に、第七王子は言葉がつまる。
「それで蹴り飛ばしても良いからと、王都からの退去を命じられました」
「…冗談だな?」
「蹴り飛ばすのは、私の個人的な方法ですが、物凄い剣幕で退去を命じられたのは、事実です」
カレンは笑顔で、第七王子に告げる。
「…ぐぬぬ」
「という事で、ここにいると、反逆者として処罰されてしまいそうですよ。殿下、私達の都市へ帰りましょうか」
納得のいっていない第七王子に、カレンは、
「衛兵、ご乱心の殿下を、鉄格子つきの馬車へ」
「…カレン」
本気なのか?と、カレンに目を向けた。
「全軍、都市国家キヌスへ。途中で南へ隊を分けるわ。魔術師50及び騎兵500の混合軍は、ここへ向かいなさい」
そうカレンが指示した机の上の地図には、傭兵の街から東へ向かった、一つの都市国家が示されていた。