111話 外伝 第一王子
都市国家ラクバール
貴族街の城壁の内側、王族の居住区、第一王子の館に私は招かれていた。
縦長のテーブルの両端に座る、第一王子と私。
対面形式で、二人だけの会食だ。
第一王子との面識は1年程前の宮中晩餐会で、少しの会話を交わしたのみである。
それが、今頃、会食の招待状を寄越したので、疑問を解消すべく招かれてみたのだ。
「お招きに感謝を」
「いえ、礼には及びません」
落ち着いた雰囲気の第一王子。
どこかの豚とは、大違いの好青年である。
料理が並べられると、給仕は全員部屋から退出した。
これは、何か重要な話がしたいという意味なのであろう。
前菜にフォークを伸ばし、その時を待つ。
そして、いくつかの他愛のない会話の後、第一王子が口を開いた。
「王女殿下は既にお気づきでしょうが、我が国は援軍を出すつもりはございません」
「…そうであろうな」
第七王子以外に、私と接触しようとする者がいないのだ。
「かと言って、王女殿下を無下に扱う事もございません」
「矛盾して聞こえるぞ。私は、援軍が欲しいのだ」
「援軍という点には、お応えできませんが、我が国に滞在する限りは、何不自由なく暮らせているはずです」
確かに第一王子の言うとおり、貴族館での生活は何不自由していない。
「その点においては、王女殿下の国と取引が結ばれていますから、ご安心を」
「取引とは、私の知らぬものだな」
私の言葉に第一王子は、手を止めた。
「やはり、そうではないかと思い、お招きしたのですよ」
「聞かせてもらえるのだろうか?」
「王女殿下は、賢者の書はご存知ですよね?」
「ああ」
旧ゼロス同盟のいくつかの都市国家に残されているオーパーツである。
そして、我が国はこの賢者の書を所有する国に該当する。
「王女殿下の国は、王族のみ賢者の書を起動できると聞いております」
「……」
国家機密に当たる為、私は応えない。
「そちらの外交官から、公式文書での通知ですのでご安心を」
「……」
「王女殿下のお立場から、お応えできないのは理解します。ただ事実として、我が国は王女殿下の保護を、賢者の書を担保に取引したという点です」
私の身柄に、価値があるという事か。
外交官も騎士団も引き上げたのは、そういう事なのか?
仮に王家が、国が滅んでも、賢者の書はアルマ王国には渡らない。
私が存命中に、ラクバールが都市国家を取り戻すまで、私に価値があるようにと、父上が考えたのだろうか。
「…戦場で死にたいのだがな」
「……」
今度は、第一王子が黙った。
「なぜ、私に話した?」
「本当に起動の鍵になるかの確認と、貴方が祖国の為に苦心しているのを、見ていられなかったのですよ」
やはり、どこかの豚とは大違いの器量であるが、
「本当にそうであるか?」
「私も、王女殿下と同じく祖国を背負う身ですから、お気持ちはお察しできます」
最後に告げた言葉は、どこか疲れているようであった。




