110話 外伝 狂人カレン
騎士の家庭に産まれたカレンは、すぐにその聡明な頭脳を、評価される事になる。
本来は通う事のできない、貴族学校への最年少入学。
だが、そこは爵位が全ての世界であり、その才能を疎まれたカレンは苛めにあう。
最下層の男爵位より下の、本来は入学する事もない、騎士の出自だからだ。
そして、カレンはその聡明な頭脳で、邪魔な環境を人を排除した。
歪んだ彼女をいつしか狂人と呼び、皆が避けるようになった。
鬼才であるが、狂人。
やがて、その評価も聡明さを隠すようになった彼女は、いつしか狂人とだけ呼ばれるようになった。
貴族学校は、12年通うのだ。
そして、入学から9年が過ぎた時、既に愚鈍として有名な第七王子が、入学してきた。
王族ならば、最年少入学が義務であるのにも関わらず、9年遅れである。
そして、二人は出会う。
…
….
……
カレンは、何かを思い出すように、
「殿下はバカだから、私をそんな目で見ないのですよ…」
真夜中の中庭に、哀しい声が響く。
「そして、私に謀られたとお考えでしょうが、誤解です」
「そうであろうか?私の疑いは、晴れそうにないぞ」
私の言葉に、今度は楽しそうな笑みを浮かべ、第七王子を覗き込むようにしゃがむと、
「殿下、殿下」
仰向けに倒れている第七王子の頬を、何度も叩き出した。
「うぅ…あぁ、カレンか…。星が綺麗だな」
「そこからでしたら、眺めが良さそうですね」
「おまえの顔が、少し邪魔だ」
満天の星々が見えないと言う第七王子に、
…ガシッ
カレンは立ち上がり、蹴りを入れた。
「グッ、何をするか!?」
「殿下?他国の王女を押し倒そうなど、国際問題ですよ?いえ、それ以前に人としての問題でしょうか」
「う、うむ…」
カレンの言葉に、第七王子は頷く。
その姿は、主君と家臣というより、友人のようだった。
「殿下?これで、諦めがつきましたよね?」
「……」
カレンの言葉に、第七王子は黙ってしまった。
「そうですか。では、続きは後程として、まずは王女殿下に謝罪を」
もはや、どちらが主君かわからぬ間柄だ。
そして、謝罪を受け入れた私は中庭に取り残され、まだ未練がましそうな第七王子は、カレン殿に引きづられて行くのであった。




