108話 外伝 都市国家ラクバール
都市国家ラクバール
旧ゼロス同盟の中央より、少し東に位置する人族の都市国家。
人族以外が珍しい都市国家のそれも王宮内で、ひきこもりエルフの王女殿下は、苦戦していた。
到着直後は宮中晩餐会と称して、盛大に歓迎された。
それも今にして思えば、国の面子という建前だったのかもしれない。
貴族館を用意され、その後もいくつかの舞踏会や晩餐会に招待された事も、今や懐かしく思える。
数ヶ月経った今では、毎週どこかで開催されている晩餐会に、招待される事もなくなったからだ。
200名の騎士団は既に故郷に帰り、身の回りの世話をする人族のメイドが、数名残っただけである。
「いや、晩餐会にまったく招待されなくなったわけでは、なかったな」
目の前の豚を見て、現実に意識を戻した。
否、豚のように肥えた人間というのが、正しいのであろう。
「王女殿下、今宵も大変美しく…是非、吾輩の妃に迎えたいですなぁ」
訂正しよう…言葉が理解できないだけ、豚の方が愛嬌があると。
「…お招き頂き、感謝を」
ただ、豚であっても、この国の第七王子であるのだ。
それなりの礼節を持って、接しなくてはならない。
そして、頭の痛い事に、我が種族に好意的で私を気に入ったのは、この第七王子であったのだ。
この巡り合わせを策謀した、我が国の外交官を斬り刻んでやろうと思ったのだが、私の到着と同時に帰国していた。
私は筆頭宮中伯にも、謀られたのだろうか?
なぜだ?という疑問を考える時間は十分にあったが、未だ答えが見出せずにいる。
「殿下、そのような下品な言い回しでは、嫌われてしまいますよ。ただでさえ、見た目が特殊なゾーンにしかハマらないのですから」
第七王子の後ろに控える長身の女が、楽しそうに笑いながら告げる。
人族にしては、整った顔立ちの女。
臣下にあるまじき態度を取るこの女性は、とても有名な人物である事を、すぐに知った。
智将カレン、過ぎたる懐刀と呼ばれる女性だ。
本来なら、表舞台に立つ事のない第七王子を、表舞台に立たせた参謀。
その華々しい戦果は、連戦連勝。
故にただの第七王子の一声が、私を都市国家ラクバールに招き入れる決定に、繋がったのだと知る。
そして、今日招かれたのは、戦勝晩餐会であった。
優雅な会話は苦手であるが、戦話なら少しは会話も弾むだろう。
豚との会話を、我慢するような教育は受けていないのだがと思い、会場へ進むと立食形式であった。
エスコートするのは、当然第七王子になるのだが、司会の進行を無視して、料理に手を出している。
「またマイナスポイントを、稼いでしまいましたね」
その姿を見て、カレンは私の横で笑っていた。




