107話 受付嬢の休日 後編
年季の入った机に椅子。
蜘蛛の巣が張った棚。
崩れかけている壁。
最下層民を思わせる部屋と、それに似つかわしくない美形の男女。
「やあ、マキナ」
領主と名乗る変人エルフが、来客に声をかける。
「相変わらず生活力を、感じさせない部屋だな」
マキナと呼ばれたエルフは、机の上に指を這わせると、積もったホコリに頭を抱える。
「掃除くらいしたら、どうなのだ?」
そう小言を言いながら、持参した掃除道具で、机の上を磨いていく。
「すまないねぇ」
変人エルフは椅子に座りながら、マキナの掃除を見届けていた。
そして、部屋を一通り磨くと、机の上に籠を置く。
「食事だ。また、ろくに食べていないのだろ?」
「すまないねぇ」
「私も、昼食がまだだったのでな。ついでだ」
そして、籠から取り出した昼食を、並べていく。
「野菜は多くとれ。それと金だ」
「あの小さかったマキナが、立派になって…」
机の上に並べられた食事と、金貨と銀貨が詰められた袋を見て、変人エルフは、芝居がかったように目頭を押さえる。
「百年以上も前の事を言うでないと、何度言わせるのだ」
「いつも言っているだろう?僕からすれば、たった百年さ」
「私の憧れを砕くには、十分な時間だったな」
マキナは、自虐するような笑みを浮かべた。
「無理に僕の夢に、付き合う必要はないさ」
「私がいなくて、困らないと言うつもりか?」
「いや、君がいないと、僕はとても困るねぇ」
その言葉を聞いて、マキナは満足したように、
「そうだろう?」
と、答えた。
…
……
………
そんな会話を、壁越しに聞いていたわけだが、
「プライベートな会話を盗み聞きするのは、趣味が悪いのではないですか?」
「このボロくて薄い壁が悪いのだと、ルルは思います」
同じように壁に耳を当てるルルが答える。
これ以上、盗み聞きしてて良いものかと、酔いが覚めてきた頭が思考を巡らせた刹那、背後から気配を感じる。
「外から聴こえるというのは、中からも聴こえるとは思わないかい?」
驚いて背後に顔を向けると、変人エルフが立っていた。
「転移魔法?」
私は、疑問を口にする。
「正解だよ。盗み聞きを良い趣味とは、僕は思わないな」
ニコニコした笑顔で話す領主に、不気味な気配を感じるが、
「そんなに聴きたいなら、中で一緒にどうだい?」
マキナとは知り合いなんだろう?と、言葉を続ける。
知り合いだから、これがバレたらまずいと思い、
「いえ、マキナさんには、内緒でお願いします」
私とルルは、即座に頭を下げた。
「そうかい?まあ、いいけどね」
「では、ルル達は帰りますね」
そして、逃げるように現場を去ろうとするのだが、
「あぁ、そうそう。もう一人の子に、お願いしておいて欲しいな」
領主様は思い出したように、
「僕の領域に穴を空けて、暴れないで欲しいってさ」
意味不明な言葉を、投げかけてきたのだった。
フィーナ?いや、くーちゃんが何かしたのだろうか?




