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106話 受付嬢の休日 前編

業務改善をして軌道に乗った日から、何週間か過ぎていた。


私は真昼間から、葡萄酒を片手に木の実をつまむ。

目の前には、同じように葡萄酒を片手に、木の実に集中しているルル。


場所は、初めて訪れた街の入り口の酒場。

あの時と違うのは、カウンターではなく部屋の隅のテーブルという点と、フィーナは部屋で夢の中という点だ。


そして、今日は休日であった。


「昼間からお酒とは、ダメ人間ですね」


頬が赤く染まったルルが、私に矛盾した言葉を投げかける。


「…酔ってますよね?」

「ルルは酔ってなんかないです。これはジュースなのです」


もう何度目かの酔っ払いの絡みに、乾いた愛想笑いを返す。


仕事に慣れたここ最近の休日は、いつも酒場に来ては、暇を潰すのが習慣となっていた。


情報屋のアンナが話し相手になってくれる事もあれば、こうして酔っ払ったルルに絡まれる事もある。


刺激の少ないこの街の休暇として、唯一の楽しみになっていた。


確かにダメ人間だよなと、物思いにふけっていると、入り口から見知った人物が現れた。


仕事中と変わらぬ威圧感を漂わせた、麗しきエルフ様…マキナだ。


彼女は足早にカウンターに向かうと、女店員に声をかけた。


「昼食を二つ、持ち帰りで頼もう。片方は、野菜を多めにしてくれ。ああ、これも良いな」


そして、店員にメニューを指差しながら、細かく指示している。


「名無しさん?どこを、見てるんですかぁ?ルルの話し聞いてます?」


独り言のように、酔っ払いの絡みを続けるルルから視線を外していたのが、わかったらしい。


ルルは私の視線の先に、顔を向けた。


「マキナさん?珍しいですね?」


酔っ払いの声とは、本人の意図しない声量になるのだろう。


マキナがこちらに気づき、一瞬、今まで見た事のない気まずい表情を見せる。


そして、店員から注文品が入った籠を受け取ると、足早に店外へと消えていった。


なんだったのだろうか?と思いながら、葡萄酒に口をつけると、


「名無しさん、追いますよ」


頬を赤く染めた酔っ払いは、凄く楽しそうな笑顔で葡萄酒を一気に飲み干し、店外へと駆ける。


普段のどこか冷めた態度のルルをこうも変えるとは、酒の力とは恐ろしいものだな。


葡萄酒を飲み干し、店の入り口に手招きするルルの元へ足を進める。


カウンターの女店員に、銀貨を渡す。


刺激の少ないこの街が、少し色づいた気がした。


「酒の力とは恐ろしいものですね」


そして、ルルと一緒に店から出た。


人通りの少ないメインストリートは、すぐに目標の人物を捕らえる。


獣人の視力と嗅覚に尾行の必要はないようで、ルルは酒場の入り口から物陰に隠れると、動こうとはしなかった。


そして、目標は私でも把握できる距離で足を止めると、一つの建物に入っていった。


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