105話 傭兵と受付嬢
強烈な目覚ましで、目が覚めた私はマキナに呼ばれると、1階へと降りた。
今日は、傭兵募集の日である。
現在残っている依頼は、昨日の依頼のみ。
1人銀貨25枚で、100人の募集だ。
私の月給とそう変わらない銀貨で、命を張る彼らはどうなのであろうか?
略奪というボーナスはあるが、傭兵には一獲千金の夢など、基本的にないのかもしれない。
そんな事を考えながら、受付嬢の仕事をこなす。
後ろには、麗しき審査員のエルフが立つ。
思い思いの時間に来る傭兵達に、番号札を渡す。
「いらっしゃいませー。あちらでお待ち下さい」
笑顔で接客すると、私を見て不思議な顔を浮かべる者、好意的な笑顔で返す者と様々だ。
だが、皆一様に私の後ろに視線を移しては、表情を引き締め、席へと向かっていく。
麗しきエルフ様が、どんな表情でいるのか、後ろを振り向く事はないようにしよう。
そう考えていたのだが、
「これは、どのように振り分ければ、宜しいのでしょうか?」
マキナからは番号と特徴を書いて、適切に配置しろと言われた。
「教えたとおりだ。適切な者を、優先的に呼べ」
「適切を、もう少し噛み砕いて教えていただけると、助かるのですが…」
私の言葉を聞き、マキナは思案する。
「そうだな。3、4、7、9、10、11、12…こいつらは歴戦の戦士だ」
その後もマキナから、各個人の情報や戦歴が説明される。
私は思わず、
「その方法だとマキナさんしか、この仕事はできないと思うのですが?」
「事実、私しかこの仕事は、こなせなかったな」
受付嬢は皆、ここで逃げ出すのだよと言う。
それは、逃げ出しますよね。
この街に傭兵が何百人?何千人?いるか、わかりませんが、それを覚えろだなんてね。
私の悩みが伝わったのか、彼女は
「できねば解雇だ。無能に用はない」
予想外の言葉を、投げかけてきた。
どうやら、業務内容に関しては、超絶なブラックのようだ。
だが、解雇は困る。
この業務内容以外は、比較的ホワイト企業なのだ。
知力20の頭で、思考を巡らせる。
能力の可視化?
能力の共通認識?
能力の差別化?
私は一つの答えを導き出し、提案した。
そう業務改善である。
…
……
………
翌週
「いらっしゃいませー。番号札をどうぞ。あとランク証の提示をお願いします」
私は、笑顔で接客する。
「ランク証?」
獣人の傭兵は、聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「初めての方は、あちらでランク査定を行いランク証を渡しますので、どうぞ。なお、紛失の場合はCランクからとなりますから、ご注意下さい」
マキナの座るカウンターを案内する。
業務改善とは、マキナの呆れた記憶を頼りにしたランク付けである。
AからCランクに分けられたランク証を元に、依頼人の要望と報酬に相応しい傭兵を、当てはめるのだ。
初期のランク付けはマキナの記憶であるが、名簿を作り、それ以降の評価は、依頼達成回数や指名依頼を考慮して上げていく。
大雑把ではあるが、命の軽い傭兵達だ。
不平不満が上がる前に、大抵は墓の中。
ブラックな業務を改善した達成感で、私は満たされていた。




